第四章「蒼井風花の復讐」-5-

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◇  翌日。真夜は問題なく退院し、それから三日間自宅療養するように病院側から指示され、大人しくそれに従った。療養という名目だが、実質謹慎だろう。  風花は夜勤のため夕方から病院に出勤し、普段と変わりなく業務をこなしていく。  時々、顔見知りの職員から「昨日は大変だったみたいだね」と労いの言葉をかけられた。誰も風花が真夜を突き落としたと信じる人はいないようだ。たしかに、自らを犠牲にしたわりにやり口は短絡過ぎた。  21時。消灯になり、病室や廊下の照明が消える。  風花は薬剤部から届けられた明日0時更新分の点滴を同じ夜勤看護師と一緒に確認した。  それからしばらく、臨時の検温に回ったりナースコールの対応をしたり、明日の入院患者の必要物品を準備したりと慌ただしく時間が過ぎていく。  一時間ごとの病室の巡視では、寝返りを打って布団からはみ出している患者の体位を整えたり、発熱している患者のアイスパックを交換したり、点滴を確認したりしながら回っていく。まだ寝付けないと言って起きていた患者が、「夜勤頑張れよ」とアメをくれた。  変わらないいつもの光景だ。  巡視から戻るとまだペアの看護師がいなかった。5分後に戻ってきたが、彼女はあくびを押さえるよう口元に手を当て、椅子に腰かけた。「なんだかすごく眠いよー」と目をこすっている。 「休憩、早めに入っていいよ」 「んー? 大丈夫だよ。もうすぐ点滴交換しなきゃいけないし」 「確認すませてあるし、私一人で大丈夫」  風花が優しく促すと看護師は少し考え、「じゃあお言葉に甘えようかな」と席を立った。
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