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第四章「蒼井風花の復讐」-6-
【6】
ナースコールの鳴った病室に風花がかけ込む。中には杵島に腕をつかまれた状態で顔を強張らせている真夜の姿があった。幸いなことに患者はよく眠っており、この異常な光景には気づいていなかった。
「患者は無事だ」
「ありがとう大地」
杵島は冷静な態度のまま真夜の腕を引っ張り、廊下へ連れ出す。風花もあとに続こうとしたが、床に一本の注射器が落ちていることに気づいた。真夜が持っていたのだろう。この後現場を検証することになるだろうから、拾わずにそのままにした。
廊下には片瀬もいた。彼の表情は強張り、微かに身を震わせている。
「まさか、ここまでするとは」
片瀬が呟くと真夜は彼に向かって微笑んだ。
「颯太。なんかこの人たち怖いんだけど、私の腕を離すように言ってやってくれない?」
「黙れ。自分が何しようとしたのかわかってるのか?」
杵島が低い声で言うと、真夜は余裕そうに微笑んだまま首を傾げた。
「はあ? なんのこと?」
隠し通せると思っているのだろうか。
真夜は、風花が点滴を交換した後その点滴に何か混注し、患者の命を危険にさらそうとした。その点滴を交換した風花が犯人だと仕立て上げるシナリオだったのだろう。
患者に害を及ぼすとしたら、おそらく他人の目につきにくい深夜。おそらく夜勤帯だろうと予め予測していた。ペアの看護師にも事前に話してあり、あえて風花が一人になるような時間を多く作ってもらえるように協力してあった。風花が点滴を交換した病室にはそれぞれ杵島や片瀬、協力してくれた看護師たちが隠れて待機していた。真夜は、逆にこちらの策にはまったのだ。
持っていた注射器の中身。それがなんなのか、風花は想像するだけで震え上がる。
ついに真夜は、禁忌をおかした。もう逃れることはできない。
「新部さん、あなたは立派な病人。罪を償うと同時に、きちんと治療を受けて」
「はあああ?」
真夜が風花を睨みつけてきた。
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