第四章「蒼井風花の復讐」-6-

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「病人はてめえだっつってんだろうが! はは。私に男取られたのがよっぽど悔しいんだねぇ? アーかわいそう! 私のほうが女として魅力的だってはっきりしちゃったんだもんねぇ!」  そう言って笑いだす。聞くに堪えないのか、片瀬が風花の前に立った。それを見た真夜が、キッと今度は片瀬を睨みつけた。 「颯太! その女と寄り戻したところで、私と結婚した事実は消えないよ! 一生、私と颯太の戸籍には、私たちが夫婦だった証拠が残されるの! 片瀬颯太が一番最初に妻にしたいと愛した女は私! この女より、アンタは私を選んだの!」  心から楽しそうに笑っていた。片瀬は唇を噛んだまま、何も言い返せずに押し黙っている。 「うるせーよ。それと同時におまえが犯罪者だって事実も一生残るんだ。他人からしたらそっちの事実のほうが記憶には強く残るからな」  杵島が吐き捨てるように言うと、片瀬は我に返ったかのように顔を上げ、風花と真夜を交互に見た。  暗い廊下の奥から警察官が二人こちらへやってくるのがわかり、杵島は真夜を離す。  真夜はギョッと警察官を見て、「どうして? 私は何もしてない」と首を振った。 「颯太、助けて」  先程までの鬼のような態度とはガラリと変わり、か弱い女性を演じ始める。 「誤解なの。ね? 颯太ならわかってくれるよね」 「……」  片瀬は真夜を真っすぐに見つめていた。哀れんでいるのかと思ったが、その瞳は杵島や風花以上に冷淡だった。 「愛奈は……」 「え?」 「愛奈は何か罪をおかしたか?」 「……」 「愛奈はただ俺に愛されただけだ。そのことがおまえにとって、何か罪を犯したようにでも見えたのか?」 「……愛?」 「結婚したのは独身のままでは出世が滞ると思ったからだ。相手におまえを選んだのは、冤罪事件の代価に過ぎなかった。愛奈を妻にできない以上、誰でもよかった。おまえのことは、一度だって愛したことはない。だから一度も言葉で伝えたことはなかっただろう? 俺が生涯で愛していると想いを告げた女性は愛奈ただ一人だ」 「……」  助けを請うような真夜の表情がストンと無に返った――
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