最終章

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 雲一つない青空を二羽の鳥が優雅に飛び立っていく。そんなある日の午後。  寺院墓地に風花と杵島、そして片瀬の三人は訪れた。  三人は墓前に立ち、しばらく無言で合掌する。  ここへ来るまで長かったような短かったような……なんともいえない感情が沸き上がる。 「なんか、不思議だな」  ふと、合わせていた手を放し、杵島が呟いた。 「愛奈は死んでしまった。それはわかってる。でも、生きてくれているんだよな」 「……うん」  風花も閉じていた目を開き、静かに頷く。片瀬は黙ったまま、まだ手を合わせていた。  お供えの花を準備していたが、自分たちよりも少し前に誰かが来た形跡があり少し枯れかかった花が供えられていた。それを見た杵島が「ジイサンだろ。意地っ張りだからいつも一人じゃないと墓参りに来ない」と言った。おそらくそうなのだろう。  墓参りを終え、三人は駅にやってきた。 「少し急がないとまずいな」  時刻表を確認し杵島が唸る。 「いつ日本に帰ってくるんだ?」  片瀬が二人に向かって尋ねてきたので風花が答える。 「春には戻ってくるよ。帰国日が決まったら連絡するね」  杵島と風花はこれから空港へ向かう。シカゴの病院で心臓移植のチームに加わるためだ。すでに現地には御堂が待機しており、オンライン通信で「早く来い」と急かされると杵島が、「そっちに行くのは半年後の話だったじゃねえか。そのせっかちな性格何とかしろよ」と毒づいていた。  一緒に連れて行ってもらえるとは思わなかったので、誘われた時は心から嬉しくて彼に抱き着いた。「片時だって離すわけないだろ?」と言ってくれて、思わず泣いてしまった。 「風花」  杵島に促がされ、風花は頷く。そしてバッグから長方形の封筒を取り出して片瀬に差し出した。
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