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それからすぐ、御堂先生から施設を退所することを許された私は颯太さんとともに共架地域医療センターのある町へ戻った。彼はその病院で再び働くようになった。
私も彼の力になりたいと看護師として働くことを希望したのだけど、以前のように不規則で心身を酷使する仕事をすることを颯太さん含め周囲から止められた。
結局、非正規の保健師として役所に勤めることになり、私たちの新たな生活が始まった。
「愛奈とここに骨を埋める」
なんだか物騒なことを言いだしたと思ったけど、どうやら颯太さんなりの決意らしくマイホームを建てたいと提案してきた。私が「マイホーム?」と聞き返すと、「あ、籍入れるのが先だよな」と慌てて婚姻届と結婚指輪を準備してきた。
驚いたけどなんだか必死な彼を見てると「まあいいか」という気持ちになり、あっという間に私たちは夫婦になった。その報告をシカゴに滞在している風花にすると「あー! もうちょっと待っててほしかったな」と言われてしまったが、その後帰国してすぐに風花も杵島先生と入籍したと報告をくれた。
マイホームの計画を進めつつ、今の住まいは以前私が借りていたマンションだ。もともとこのマンションは御堂先生が所有していた。この町へ戻ることを伝えた際、退所祝いだとこのマンションを丸ごと譲ってくれた。それを聞いて颯太さんは目を丸くしていた。私も内心、驚いた。
二人で暮らし始めてすぐは身体を繋ぐことが出来なかった。颯太さんが、私の身体を気遣って時間を置きたいと言ってきたのだ。けれどいつまでたってもそれらしい雰囲気にならなかったので、私が医者から許可をもらっていると話してみたその日の夜、すごく時間をかけて抱いてくれた。私を壊さないように気を遣ってくれているのが分かってすごく嬉しかった。きっと初めての時より彼は慎重だった。行為の途中、彼が涙ぐんでいるのが分かった。本当に泣き虫になってしまったのだなとたくさん愛おしむ一方で、私も泣いてしまった。
もうどこにもいかないから、心配しないで。
颯太さんが離れて行ってしまっても、絶対に追いかけていく。
そう彼に告げた。
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