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それから、颯太さんは私より早起きして朝ご飯を毎日作ってくれるようになった。しかも手間のかかる和食がほとんどだ。もともと彼は朝方タイプらしく、早起きして活動することはそんなに苦ではないという。以前は全くしなかったはずの料理も、どんどん上達していった。
仕事も颯太さんや職場の上司と相談し、午前中のみの勤務に雇用契約を変更させてもらった。自分では気づいていなかったけれど、どうも私は与えられたこと以上の仕事をしてしまうきらいがあるらしく、自分がしなくてもいい雑務を必要以上に抱えてしまっていたらしかった。
空いた午後の時間を、病と闘う子どもたちへのボランティア活動に当てることができた。以前から力になりたいと思っていたことなので、とても充実した時間を送れるようになった。
そんなふうに生活が変化したのだけれど、もっとも一転してしまったのは……夜の生活だった。
またしても、颯太さんは私を求めて来なくなってしまった。
浮気は絶対にしないと信じているので、その心配はしていないが私の身体には飽きてしまったのかもしれない。そんな不安が日に日に募った。
朝の目覚めから昼間の生活はとても充実できているのに夜になるととても淋しくなる。背を向けて眠っている颯太さんにそっと抱きついてみたけど、「愛してるよ」と振り向いて抱きしめ返してくれるだけで、そのまま眠ってしまう。
これでは、子どもを作るどころではない。
風花に相談してみようかとも思ったけどあの子のことだからきっとロクなアドバイスはもらえない。というか、たぶん風花もわからないだろう。
悶々と考えながら夕食を口にしている姿を颯太さんにじっと見られていることに気付いて、少し焦る。
なんだか自分が欲求不満みたいに思えてきた。
ううん、きっとそうなんだろうけど、颯太さんに気づかれてしまうのは恥ずかしい。
平静を装わないと。空になったお茶碗を持ってキッチンに逃げ込む。彼のための晩酌の準備をしよう。そう思って冷蔵庫を開けて中を覗いていた時、後からやってきた颯太さんがなぜか冷蔵庫の扉を閉めた。
「今夜は用意してくれなくていいよ」
「え、でも」
「いい。それより、愛奈が欲しい」
すごく真剣に言われドキと胸が高鳴った。抱きしめられたけど、押し付けられた体の一部分が固くなっているのに気付いて思わず彼を見上げてしまった。
顔を上げるのを待ち構えていたみたいにキスをされた。それだけで、頭がくらくらしてきてしまう。
「まあ、がっつくのはベッドの中でにするよ。シャワー浴びてくる」
そう言っていったん颯太さんは私から離れていく。
突然現れて突然いなくなってしまう彼に、私は翻弄された。
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