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「ダメだよ。一人暮らしの女性の部屋に、こんなふうに簡単に男を連れ込んじゃ」
「だ、だって、鍵がないって、困ってるって……!」
「そんなこと言われても、放っておくのが普通だよ。ねえ、本当に大丈夫?」
何が大丈夫なのだろう?
いや、絶対に大丈夫ではない。
「本当に、短時間でいろんなきみを知ることができたな」
「いいえ。何も、私のことは知らないはずです……!」
首を振り責めるような眼差しを片瀬に向けると、どういうわけか彼は優しく微笑んで腕を掴んできた。
「そっか。そういえば名前、知らないね」
「……」
「まあ、いいよ。これからいくらでも知る機会はあるし」
掴まれていた腕を引っ張られ、意図せず片瀬の胸に倒れ込む。そして包み込むように優しく抱きしめられた。決して強引ではなく、きっと突き放せば彼はあっさりとこの身を自由にしてくれるだろう。噂で聞く限り乱暴な人ではない。けれど、動けなかった。明らかに自分とは違う筋肉質な胸板に、不本意ながら胸が高鳴っていた。
「嫌がることはしないって、約束してくれました」
「うん。嫌がることはしてないよ。だってきみ、嫌じゃないよね?」
「……」
相手に騙され、身の危険が迫っているというのに自分は嫌ではないのだろうか……?
愛奈はそっと顔を上げた。そのまま顎に指をかけられ、さらに顔を上へ向かせられる。視線が合うと同時に唇が重ねられた。胸の高鳴りがさらに激しくなり、思わず自分の胸に手を当てる。
なぜ、同じ過ちを繰り返してしまうのだろう。
大丈夫。きっとこの人も同じだ。男の人なんて、皆同じ。
きっと、逃げていく。
この先、本当の私を知れば――
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