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第一章「蒼井愛奈の情愛」-2-
【2】
いろんなきみを知れた――そう彼は言った。しかしこの先を知ってしまえば、その言葉の重みを後悔するかもしれない。
ベッドの上に身を倒されると、愛奈はこの先どうしていいかわからず、ただ素直に片瀬にゆだねるしかなかった。
迷うことない手つきで服を脱がされていく。ずいぶん慣れていると思ったが、比較対象もいないし、もしかすると難なことではないのかもしれない。
肩が少し寒いと感じる。だが彼に口づけされると不思議とすぐに熱くなった。このままジッとしていていいのか、目を閉じたほうがいいのか、何もわからない。
ただ、彼が気づくその時まで、おとなしくしていよう。そう思っていた。
少ししてエアコンの機械的な音に気づき、愛奈は虚ろな眼差しを窓側の壁へと向けた。
エアコン、つけたっけ……?
ここへ来るまでの行動を思い返してみるが、よく覚えていない。そういえばリビングのエアコンは止めただろうか。
そんなことを思いめぐらせていると、ふいに片瀬が愛奈の両頬に手のひらを当てて自分の方へと向けさせる。少し拗ねている。気が漫ろになっているのが気に入らないのだろう。
自分にされていることだけに集中しろというわけか。意外と独占欲の強い性格らしい。
目を合わせたまま、やや乱暴に唇を塞がれた。そのまま、なぞるような手つきで体を暴かれていく。
やがて、彼の視線が胸の辺りで止まった。少しして明らかに困惑したような眼差しを向けてきた。
やはり、気がついたらしい。
「やめますか……?」
そっと片瀬の耳元でささやく。
「あの、このままやめてもらって大丈夫です。私、今日のことは誰にも言ったりしません。きちんと忘れます」
言いながら少し涙が浮かんできてしまい、それを悟られまいと覆いかぶさっている片瀬を押しのける。続けて床に落ちた衣類を拾うために手を伸ばした。
「それは無理」
背後で低い声がした。抱きすくめられ、体を引き戻される。それからすぐに後ろから顎をつかまれ、顔だけ振り向かせられた。再びキスを求められそうになり、今度こそ愛奈は首を振って抵抗した。
「どうして? だって私」
体を暴けば、きっと片瀬は酔いがさめて行為を中断するだろうと思っていた。想定してしない相手の反応に、焦ってしまう。
いったんは躊躇していたはずだったが、どうやら火がついてしまったようで片瀬は強引に愛奈をその場に押し倒し、逃がすまいとギュッと手を握ってきた。
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