第2話 あたし(千晶)

5/8
前へ
/23ページ
次へ
昨日の夜のことも、突然だった。 家での夕食中、パパのスマホに、ママから電話があった。 パパは、ダイニングテーブルから離れ、自分の部屋で一時間近くママと話していた。 パパが居間に戻ってきた時には、あたしも祖父母も食べ終わっており、パパの分の料理は冷め切っていた。 「ママが、久しぶりに千晶に会いたいって言うんだよ」 「えっ、ママ、日本に帰ってきているの?」 「ああ。でも明日の夕方には、また飛行機で外国に行くと言っていた」 「いいよ。そんな忙しい会い方をしても、楽しくないから」 素っ気なく答えると、パパはあたしの肩に手を置いてゆっくりと話した。 「ママに会っておいで。 パパと離婚しても、お前にとっては、たった一人のママだ。 とても疲れている様だったし、会ってあげて元気をつけてあげなさい」 パパは真面目で優しい人だ。 あたしは、気が進まなかったけど、パパの言葉に従った。 パパは、あたしのために、苦労している。 おばあちゃんもおじいちゃんも、あたしに気を使ってくれている。 でも、ママは……。 運転しているママの横顔をチラッと見た。 ママの視線があたしに向かないうちに、視線を助手席の窓の外に向けた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加