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大きく息を吸い込んだ。
外に出て、息が出来るようになって命がつながったのに、静かだった水中より、怖いと思う気持ちは増していた。
あたしのすぐとなりにママが浮かび上がった。
「ママ! これ!」
あたしはママに声をかけ、ウーロン茶のペットボトルを手渡した。
「千晶、ペットボトルを胸に抱えて、仰向けになって力を抜きなさい。
河の流れに身を任せて同じ姿勢を保つの。
水を飲んでもパニックにならないで!」
ママは、あたしに見せるように、両手でペットボトルを両手で胸に抱えると、仰向けになった。
あたしもママのまねをして、ペットボトルを胸にギュッと抱えて、仰向けになり、河の流れに身を任せた。
身体は、グングンと流され、ひっきりなしに水が顔にかかった。
仰向けで見上げる空は、黒雲や金色の乳房雲など影も形もなく、青く澄み渡っていた。
美しい空の色。
でも、『きっと死んでしまう』という予感を少しも和らげてはくれなかった。
指が震え始めた。
もうペットボトルを持っていられない。
ペットボトルを離したときが死ぬときだ。
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