第4話 死神の吐息

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そう思った時、ママの声がした。 「右がわを少し見て。わたしがいるから」 少しだけ右に顔を動かすと、ママが見えた。 「うん。見えた」 ――ママがとなりにいる。 少し心が楽になり、ペットボトルをしっかりと握れるようになった。 息を止めて首を振り、左右を見た。 河の両岸が等距離に見えた。 どうやら、真ん中を流されているようだ。 それからは真上だけを見た。 どれだけ流されているのだろう。十分、三十分?  突然、青空を黒い影が遮った。 同時に、体の左側が固い壁のようなものに接触した。 ザザーッと、肩から足まで擦られ、衝撃と鋭い痛みに、ペットボトルを離してしまった。 たちまち水中に没し、あたしは、もがいた。 そのとき、あたしを引っ張る力を感じた。 力の方向を見るとママがいた。 ママは、あたしの服を引っ張り、水面まで引き上げた。 「これを持って! また、仰向けになって」 ママが胸に押しつけてきたものを思わず握りしめ、仰向けの姿勢を取った 次の瞬間には、ママが見えなくなった。 ママが押しつけたもの。 それはウーロン茶のペットボトル! 「ママ!」 接触したコンクリートの高い壁が、すぐ左側を過ぎていく。 それは橋げただった。 青空をさえぎっていた橋が、通り過ぎる。 ヘルメットを被った何人かの人たちが、欄干から身を乗り出し、あたしを指さしていた。 「生きているぞ!」 と言ったのが、かすかに聞こえた。 ――助かるかも…。でも、ママは?
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