第1話 わたし

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雲は加速度的に回りだし、丸かった形が地上に向かって尖り始めた。 ――間違いない。あの雲は『乳房雲』。 ラテン語で『Mamma(ママ)』。 優しい名前だが、危険を(はら)んだ雲。 条件が揃えば竜巻になる! ゴン!  物凄い音を立てて、人の体ほどの太い木の枝がピックアップトラックの助手席のドアにぶつかった。 突風だ。 辺りに凄まじい風の音が鳴り響いた。 「なにが起こっているんだ!」 男たちが地上を見回す中、わたしだけが空を見上げていた。 逆三角形に尖った雲の先端は、猛烈に回転しながら地面に突き刺さった。 竜巻の完成だ。 のたうつ竜巻の胴体は、太さをどんどん増しながら、こちらに向かってきた。
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