第2話 あたし(千晶)

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第2話 あたし(千晶)

改札を抜けて駅を出ると、なつかしい風景が見えた。 入道雲がわく青空の下に、高くないビルや家が立ち並び、その奥には、去年まで通っていた中学校。 瞬間、転校以来会っていない友だちや、ラクロス部の仲間たちが心に浮かんだ。 失ってしまったものに久しぶりに出会ったとき、どう反応したら良いのだろう。 あたしは駅舎の出入口に突っ立ったきり、動けなくなってしまった。 でも、真夏の日差しに顔が容赦なく焼かれる。 両手のひらを顔の前で交差して、日の光をさえぎったとき、駅前の時計塔から正午を告げるチャイムが鳴った。 ――約束の時間だ。まだ来ないのかな。来るまで駅舎の中にいようかな。 と思ったとき、プップーと、安っぽいクラクションの音が聞こえた。
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