1人が本棚に入れています
本棚に追加
古ぼけた赤い軽自動車があたしの正面、駅前の自動車乗降所に止まった。
助手席の窓が下がり、運転席から身を乗り出した顔が見えた。
「千晶、おまたせー」
電話では、時たま聞いていたが、肉声ではほぼ一年ぶりに聞くママの声。
真黒に日焼けした化粧っけのない顔や短髪にした髪は、あたしが知っている以前のママのイメージではなかった。
一応、顔に笑みを浮かべて、ママに小さく手を振った。
「早く乗って」
ママに促され、助手席に乗りドアを閉めた。
車がグンッと前に動き出した。
「久しぶりね。暑かったでしょう。
ドリンクホルダーにあるコーラ飲んでね」
――ママ。あたしはもう、炭酸飲料は飲んでいないんだよ。
運転席と助手席の間のドリンクホルダーに置かれた二つのペットボトルを見た。
ひとつはママのお気に入りのウーロン茶。
あたしは助手席側に置かれているコーラのペットボトルを開け、一口飲んだ。
そして、もう会話が尽きた。
最初のコメントを投稿しよう!