第2話 あたし(千晶)

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「ここは日本だよ」 あたしは、モンキーレンチをグローブボックスに戻した。 よく見ると、車にはオーディオセットは無く、ラジオだけだった。 「ラジオ付けるね」 地元FMにチューニングして音量を上げる。 重苦しい空気の中、ラジオからシュ―プリームスの「恋は焦らず」が流れた。 なぜ、あたしがこの古い曲を知っているかというと、『英語の歌! 合唱コンクール』の時に、クラスで歌うはずだったからだ。 でも、コンクールの前に転校してしまった。 パパとあたしは二人きりになってしまったために、パパの実家に引っ越したからだ。 だから今は、パパと祖父母と一緒に暮らしている。 中二の秋に転校したことは、あたしにとって最悪だった。 教室の空気は、高校受験一色に染まっており、転校生と友だちになろうとする子は、ひとりもいなかった。 中三の今になるまで、打ち解けて話せるクラスメイトは、誰もいない。 ――ママは、あたしの辛さなんて、これっぽっちも分からない。 いつも自分勝手だ。
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