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「これだよ!このパーカー!」
公園のベンチに座った
俺と田口にじわじわと陽の光が照らされる。
田口は鼻息を荒くしながら興奮した面持ちで
ショッピングモールの袋の中から
無地の白いパーカーを取り出した。
「これが例の?」
俺は目を丸くしながら田口に聞いた
まだ俺にはこのパーカーのポケットから
手を突っ込むと中からお金が出るという
話が信じられない。
その話を聞いたのはつい2週間前
大学に行く途中の電車で
揺れに身体を任せているさなか
田口からくだらないやり取りの後
一方的に聞かされた。
「なぁなぁ、ちょっと話聞いてくんね?」
「いつもみたいに無駄話聞かされんだろ?勘弁だ」
「違うって!今回はワケが違うから騙されたと思って聞いてみ?」
「騙されると思って聞くわ」
「実はな?俺もうお金に困らなくなったんだよ」
「宝くじでも当たったのか?」
「いや、パーカー」
「はっ?パーカー?」
「そう、パーカーのポケットに手を突っ込んで抜くと、あら不思議手のひらには万札が一枚出てくんだ」
「なるほど、本当にくだらん話だ」
そんな低レベルな話に
耳を傾けるのも億劫になり
肩にかけていたカバンから
有線イヤホンを取り出して耳に入れた。
すると田口は
自分のした話を遮られると思ったのか
俺の右腕を掴みイヤホン装着を阻止し
「疑うなら明日見せてやるよ」
と不気味な笑みを浮かべた。
そして今日に至り
今、目の前には
例の金のなるパーカーとやらがお目見えしている。
「コホン、じゃあ見とけよ」
田口がTシャツの上から
パーカーを着ると
指をポキポキわざとらしく鳴らしてから
両サイドのポケットに手を入れる。
中がもぞもぞと動いているのが
目視で確認できる。
お金を漁っているのだろうか。
はたまた友人を騙すために
2日間もかけて
しょうもないドッキリをしているのか。
「来た!来た!」
田口の目がキラリと輝く。
同時に太陽の照りを強くなり始め
まるで舞台上のすべての光を
集めるトップアイドルのように
田口の手元を照らす。
次の瞬間ポケットから手を出すと
溢れんばかりの紙幣が
指の隙間から垣間見えた。
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