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5
ビルの中をよく見てみると
ドアも何もない入口に見える場所を見つけた。
恐る恐る首を伸ばして
中の様子を伺うが
広がっていたのは漆黒の暗闇ばかり。
老人なんかいる気配すらない。
そもそも人の体温すら感じない。
こちらに飛んでくるのは
冷え切った風だけ。
鳥肌もじわじわと立ってくる。
いっそのこと帰ってやろうかともよぎったが
昼間の田口の不気味な顔が蘇り
身体が硬直した。
一瞬だけだが白昼に見せたあの表情は
悪魔に取り憑かれたといっても過言ではないほどのオーラがあった。
やつとは何年も付き合っているが
あんな顔は初めて見た。
ここで怖気づいて帰ったら
あれ以上のものを見せられる可能性があると
考えたら引くに引けなかった。
「すみませーん」
「誰かいますか?」
声が上擦りながらも
暗闇の中へ問いかけてみた。
すると中から
「はい!いますよ!」
まさかの返答があった。
てっきり人が居ないもんだと思っていて
声が聴こえたときは
思わず、あっと声が漏れた。
「さぁさぁこっちへいらっしゃい」
そんな俺の恐れおののいた態度など
露知らず暗闇の中から聞こえる声は
お客様を歓迎するような
老人の渋い声があるテンションだった。
俺は得体のしれない恐怖から
足を後ろに引きずるようにして後退し
その場から離れようと試みた。
少しずつ
少しずつ
客実に後ろに下がっていったが
次の瞬間
背中に突き抜ける衝撃を感じた。
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