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あまりの衝撃の強さに 俺の身体は一瞬 宙に浮いた。 みるみるうちに ビルの中へ吸い込まれていく。 身体に力を入れて堪えようとしても 時すでに遅し。 誰かに背中を押された俺は ナイトビルの領域に足を踏み入れてしまった。 漆黒の闇の中に 放り込まれた俺は 重力に身を任せるまま 四つん這いの姿勢で手をついた。 ひんやりとしたコンクリートの 硬い感触が手に伝わる。 辺りを見渡すが 広がるのは暗闇。 身体中の五感が警戒心からか 研ぎ澄まされる。 そのおかげで遠くの方から 微かにだが足音が聴こえた。 それは ズルズル……ズルズル……と どちらか片方の足を引きずりながら こちらへ向かってくる音だった。 スピードこそは早くなくとも 着実と俺の方に近づく 恐怖の音。 俺は反射的に逃げ出そうとしたが 身体が言うことをきかない。 というよりは 手がコンクリートから離れない。 上半身を大きく上下に揺らして コンクリートから手を離そうとするが 一向に取れない。 そして焦りから 息も乱れていく。 ズタ…ズタ… 徐々に足音が近付いてくる。 尚もその場から離れようと もがきまくる。 そしてじわじわと 両手から暖かいものを感じた。 床に目を落とすと 暗闇ながらも なぜ手が離れないのかが分かった。 両手にぶっといビスが刺されていた。 ははっ それじゃ手が取れないわけだわ。 あっなんか、痛いな。 それもそうだよな 両手の手の甲のど真ん中に 錆びたビスが貫通してんだもんな。 そして暗闇でも 血が流れてるのは分かるもんなんだな。 あっ足音が止まった。 へー!なるほどね! こんなに至近距離だと流石に 姿も見えるもんだな。 目の玉も無ければ 口も2つある。 鼻なんかどこにあるかわかんねぇじゃねえか 白髪ボーボーで清潔感もねぇ。 そりゃ明るく照らされた場所では 醜くて人様の前では出られないな。 そんでどうすんだ? 言っておくがもう逃げも隠れもしないぜ? というか逃げたくても逃げられないけどな。 俺を換金する? ちょっと言っている意味が分からないが どういう事だ? 俺の身長? 身長は175cmだが? 身長分の数字をそのまま万単位でお金に替えることが出来る? とても素面の説明とは思えないが お前の言うことを整理すると 俺が175cmだから 175万円を換金することが出来るってことか? そこまでは合ってる? ほう、じゃあまだ続きがあるわけだな? どうせこのまま身動きが取れないんだから その代償に話の続きを聞かせてくれよ。 ……とても現実味がない話だな。 でもこれで田口がやってた あの無限にお金が湧き出た理由が掴めたよ。 俺が殺されると 自動的に田口の持っていた袋の中に お金が入るわけだな。 言ってみればあの袋は ATMのようなシステムになっていると。 田口がここに誘導して 生贄を捧げれば捧げる度 お金が懐に入る。 そんでもって高身長なら 手に入るお金も大金になる。 俺も所詮アイツにとったら ただの金にしか見えていなかった訳か。 友情よりも欲をとったんだな。 ふん……滑稽なもんだな。 俺の人生最後は 金に目が眩んだ他人に 罠仕掛けられて消えるとは あーあ、 クソみたいな人生だった。
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