2人が本棚に入れています
本棚に追加
あの夏が海にいる
あの夏が海にいる……
まがりくねった潮風のリアスな昼下がり
次のコーナーはあっち向きだからって
そんな気遣いは要らないと笑う君の背中に
ほんの少しだけ頼もしいと口もとあげた
くすぐったいからシャツで遊ぶな
そう言われるのが嬉しくてはしゃぐ指さき
見えない君の眉が照れていること知って
きみの温もりを頬で確かめていた晴れの日
この海にはイルカが住んでいる……
そんな君のみつめる青はとても広くて
とおい水平線のその向こうまで映りそうで
キラキラと笑う水面よりも楽しそうな瞳に
二匹のイルカが空高く跳ねるのがみえた
すっ……と伸ばした君のひとさし指のさき
夫婦の岩の間を白いヨットが泳いでいた
穏やかな時間のなかにたゆたうそれは
まるでこの瞬間を永遠に変えてしまいそう
悲しみはぜんぶ白い袋に詰め込んでしまえ
そしてゆっくりゆっくりと眠らせてしまえ
いつか、いつの日か……きっと……
あの夏の海に出会えるときが来ると信じて
最初のコメントを投稿しよう!