南に住むひと

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南に住むひと

抱きしめてあげて下さい…… そう声をかけられたのは何時だったか ほんの短い時間ごとに名前が変わる ときには人格までもが違っていたころ あの、白い砂浜にはじめて行った夜の うす紫の月あかりの中に立ち尽くす少女 ぼくは、その少女の名前を知らない それでも放っておくことが出来なかった そんな話をしていたぼくの名は「朱里」 おそらく心が何処にあるのか忘れていた 名前を教えて下さいませんか…… 朱里と名乗ったぼくに対して微笑むひと 何も怖くはありません名前だけで大丈夫 そっと飛ばして下さいとボックスを開く しゅりさんでは無かったのですね…… アカリをシュリだと思い込んでいたと 目尻を下げまっ白な歯をみせた、彼 淡々と語り始めた、ぼくの全てのこと 耳を疑うような話の中にすんっと落ちた ごめんなさいね、 貴女は与えられる側のひとじゃない…… すべての音が消えてしまった瞬間のこと あるべき場所あるべき姿へ戻りましょう 何か聞き流してしまった事があるような 大切な言葉を忘れてしまっているような いま、ぼくは そのひとに会わなければならない…… なんの根拠があるわけでもないけれど ただ漠然と、そんなことを考えている b30d6bb2-2aa3-46d7-8639-887ea4a658c3
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