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風に消えた蒼い瞳
『広場をいつも眺めている、蒼い瞳の少女がいた……』
なにげなく流し読みしていたブログサイトで、そんなはじまりの文章をみつけた。文章は二十行ほどで止まっており、とうぜん完結なんてしてはいなかった。つぎの日も、また次の日も、そこから物語がすすむ気配はなかった。
僕はそのサイトで、遊びごとのような文章をかいていた。まんがしか読まない僕の文章は、その道のひとから観ると腹立たしいものだったと思う。実際、書くなというメールもたくさん送りつけられていた。
ある日、まんがの中の文章を少しだけアレンジして、ブログのなかに紛れ込ませた。するとすすまない物語の執筆者から、とつぜん声をかけられた。
『かわった文章をかかれますね』
僕は嘘をついてはいけないとおもい、まんがの中の文章を取り込みましたと伝えた。その元になったまんがを訊かれ、少し恥ずかしいとおもいながらも教えた。
数日後、また彼から連絡がきた。どうやら教えたまんがのことを調べて、もとの文章を確認したようだった。じっくりと人生を歩んできたであろう彼が、僕が教えた少女まんがを読んだのかと思うと、正直わらいよりもひいてしまった。
『わたしの文章の続きを書いてみませんか』
そんな一行に、僕は固まった。なにも考えずに吐き出した日記のような文章と、プロットなんて言葉すら知らずに描きはじめていた小説。そんなものしか載せていない僕に、童話の続きを書けというのだ。
とうぜん、断った。そんな自信はまったくない、文章の世界のことはわからないと。すると彼は、僕にいった。
『なにも知らないからいいんです。へんに小説なんて読まないで下さい。ただあなたの思うままに、感じるままに書いて下さい』
僕は、彼の作品をぶち壊してしまう自信があった。だからそれを素直につたえ、書くことは出来ないと謝った。すると彼から返事がきた。
『それなら交互にかきましょう。微妙な軌道修正なら僕がします。あなたは好きに書いて下さい』
それからしばらくの間、僕は彼の強引な思いつきにお世話になった。官能的な文章も要求され、駄目だしをくらいながらメールのやりとりもした。なるべく迷惑をかけたくない、少しはまともな文章をかきたい、そんな思いで小説の書き方などを調べながら書いていた。
また平行して自分の書いていた物語も、少しずつすすめていた。そして僕のことを馬鹿だクズだとののしっていた人たちも、僕の文章に反応してくれるようになっていった。
それからしばらく経って、違うサイトでの新作セレクションに僕の物語がとりあげられた。そして彼は、居なくなった。
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