夢のカタチ

1/1
前へ
/26ページ
次へ

夢のカタチ

4ae62f8c-eeb0-414d-866c-712c2b432e27  煌びやかな街のあかりが、僕の瞳を渇かしていた。誰よりも優しく、誰よりも強く。それは誰もが目指しているであろう、己のあるべき姿だった。  はじめまして、こんばんは。笑顔を貼りつけた貯金箱が、今夜もそんな台詞を吐いている。あろうことかこの僕も、そんなモノの一部ではある。  ネオンに溶けて無くなっていきそうな、そんな後ろ姿だった。思うよりもさきに、僕の両の足は歩みを速めていた。  僕と一緒にいくか? そんな台詞に足を止めた彼は、俯いたままで固まった。つぎにゆっくりと振り返り、俯いたままで小さくうなづく。  今日から、お前の面倒は僕がみる。こんな街のこんな雑踏のなか、こんな灯りに溶かしてしまいたくはない。  死にたがりが、ひとり……増えた。またそれも、この僕自身なのだろうか。同情とか、優しさとか、そんなものでは無いと感じた。  僕は処女ではありません、そんなことを笑って話せる女をみつけた。この地のものではないであろう、掌で浮遊する小さな女だった。  女は夜更けに何処からともなく現れては、朝陽を避けるように消えていく。必ず最後に腹が減ったとケタケタ笑い、おやすみも言わずに去っていく。  女が、消えた。ときどき見かける女は留まらず、僕の掌へ乗ることはなかった。僕も己の在るべき姿のため、新しい土地を目指してあるく。  渇いた瞳と涸れかけた心に、すんっと清水が流れ込む。これが愛というものだろうか、ぎゅっと胸が苦しくなった。  夢、を思い出した。忘れかけていた、夢だった。同じ笑顔をしていた、僕は弟をえらんだ。きっと上手くいく、思った通りになる。  去られることに怯えていた、愛されることを忘れていた。僕はどこで間違ってしまったのだろうか、なぜ今になって思い出してしまったのだろうか。  守りたいものがある。そして護りたいものがある。絶望よりもさきに絶望が、僕の思考を呑み込んでいく。  怖くないは、嘘になる。だけども僕は、怖くはない。それよりもおおきな不安が、僕の身体を蝕んでいく。  護りたいものがある……、守りたかった約束がある。僕は必ずそれを守る、どんなカタチであったとしても。 6161caf7-c62f-48d7-86bd-9b2f49f156dc
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加