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 向かい側のホームに変な男子高校生が現れて数日が経った。  彼は最初こそ目立っていたが、今や風景の一部になりつつある。  市内で一番栄えているこの駅はとにかく人が多い。  特に朝は誰も彼もが急いでいて、他人を気にしている余裕などないのだろう。  あの女子高生グループの子たちでさえ「ああ今日もいるわあの人」といった感じで、初見の熱狂ぶりはすっかり消え失せていた。  それでも男子高校生は相変わらず「キュンしてください」のうちわを持って立っていた。  清香はなるべく彼を視界に入れないようにしながら、今日もホームの片隅で問題集を開く。  こうして電車が来るまでの待ち時間、勉強するのが清香の日課である。  隣には優菜がいる。優菜は清香と同じ高校に通う女の子で、1年生の頃から仲がいい。  優菜は先ほどから何かぶつぶつ呟いていた。 「うーん。やっぱりそうだよねえ。……うん。絶対そう!」 「なに、どうしたの」 「あの人、清香ちゃんのファンなんだよ!」 「は?」  優菜の言葉が理解できず、清香は彼女を見つめた。 「だってね、いつも清香ちゃんの前に来てるもん。ほら!」  優菜の勢いに押されて、つい見たくもないのに視線がそちらに向く。  向かい側のホームに立つ彼の顔を清香は初めてまともに見た。  向こうも清香に気付いて目が合う。  彼はへらへらと笑いながら、手を振っていた。  遠目からでも彼が垢抜けた男の子なのはわかった。  茶色っぽいウェーブがかった髪に、少し着崩した制服。  いかにも軽そうで青春を謳歌している雰囲気がひしひしと伝わってくる。  クラスの一軍男子であることが何となく想像ついた。  一目見て大嫌いなタイプだと清香は思った。   その場で若干ぴょんぴょん飛び跳ねているのが、すごくうっとうしい。  そのまま飛んでいってくれればいいのにとすら思う。 「ねえ、やっぱりそうでしょ?」 「違う違う。絶対ありえないから」  清香は強く否定する。  けれど、優菜は一人盛り上がっていて「ファンサしてあげないの?」ときらきらした目で促してくる。 「するわけないでしょ。優菜がしてあげれば」 「えーだってあの人清香ちゃん推しだから」 「だから違うってば」  つい強い口調になる。  気づけば鳥肌が立っていた。  怖かった。  見ず知らずの話したこともない人に推されるほど、目立った覚えはない。  清香はどこにでもいる普通の女子高生である。  黒髪ロングに、美人でもなければそこまで悪くもない顔立ち。  多少他の女の子より身長が高いくらいしか特徴などない。  仮にもしあのうちわが自分に向けられてるのだとしたら、からかわれてる以外考えれなかった。
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