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絶望の転生先
えっ、わたし、『裸の王様』の世界に転生しちゃったの!?
あまりの衝撃にふらりとよろめきそうになるのを寸前で堪える。
マジか……恋愛要素が欠片もないお話だ……。どおりでこの歳まで何の出会いもなかったはずだよ……。
絶望に打ちひしがれていると、ベルナルド陛下の美声が聞こえてきた。
「ふむ、愚か者には見えないと。それは面白いな」
えっ、えっ、ちょっと待って。まさか、こんな胡散臭さ極まりない話に騙されたりしないよね?
まさに国宝級の超絶美形でいかにもハイスペな国王陛下が、見るからに裏のありそうな笑顔の中年男二人組の、まさに子供騙しとしか言いようのない詐欺話に引っかかるわけないよね? ね???
わたしの心配をよそに、ベルナルド陛下はその美しいご尊顔を綻ばせ、誰もが聞き惚れる良いお声で仰った。
「よし、さっそく魔法の布とやらを織ってもらって、衣装を仕立ててもらうとしよう」
引っかかったぁぁぁぁ!!!
嘘でしょ!? これが物語の強制力ってやつ!?
絵本に描かれていたような、お腹ポッコリのおじさん国王だったら騙されても「やっぱりね」って感じだけど、あの美形陛下でも信じちゃうの!?
顔はいいけど頭は残念なイケメンだったの!?
「かしこまりました。それでは、機織りと仕立てのために王宮の一室をお借りできますでしょうか。それと報酬は金貨百枚をお願い申し上げます」
「いいだろう。出来上がったら私がパレードでその衣装を着て、国民に披露しようではないか」
いいだろう。じゃないよ!
なんもよくないよっ!!
どうしてパレードで衣装を披露するって発想になるかな?
あ、原作だとオシャレ大好きって設定なんだったっけ。
いやいや、それにしても普通は画家に絵を描かせるくらいでしょ。いくらなんでもパレードはおかしすぎるって。
「ありがとうございます。それでは、わたくしどもは早速作業に入らせていただきます」
「ああ、よく励むように」
わたしがパニックになっている間に、詐欺師たちは王宮の兵士に案内されて御前から下がっていってしまった。
え、え、ヤバイでしょ。取引成立しちゃったよ。
てことは、あの美形陛下が裸でパレードしちゃうの?
国中の老若男女が集う中を、パンツ一枚で練り歩いちゃうの?
……それはそれで美味しい展開かもしれない──って、いやいやいや、ダメダメダメ。
あの陛下にそんな地獄のような恥辱を味わわせちゃいけない。
……こうなったら、陛下が裸になってしまう前に、『裸の王様』の物語を知っているわたしが、あの嘘つき男どもの詐欺の証拠を掴んで、裸パレードの悲劇を防ぐしかない……!
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