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転職のススメ
「リーゼロッテ嬢」
「は、はい……」
何を言われるのかとビクビクしながら返事をすると、ベルナルド陛下がふっと笑った。
「そんなに怯えずともよい。そなたには感謝している」
「はい……? 感謝、ですか……?」
「ああ、そなたは私を助けるために、色々奔走してくれたのだろう?」
もしかして、詐欺師どもをストーキングしたことを言っているのだろうか。
なんでそんなことを知って……いや、待てよ。さっき陛下が詐欺師どもには初めから "影" をつけて監視していたって言ってたな。
つまり、わたしのスパイもどきの行動もすべて筒抜けだったってこと!?
仕事をサボって草むらとか樽に隠れたり、壁にコップを当てて盗み聞きしてたりしたのも、全部バレてた……?
愕然とするわたしの表情を見ると、ベルナルド陛下は笑いを堪えるかのように片手で口許を押さえて言った。
「そなたの活躍ぶりには、ずいぶん楽しませてもらった」
あ、やっぱりバレてた……。これはクビかもしれない、終わった……。
風に吹き飛ばされる灰になったような気持ちになっていると、ベルナルド陛下がこちらへと近づいてきて、私の目の前で立ち止まった。私より頭一つ分高い位置にある、陛下のお顔を恐る恐る見上げる。
「トマスとハンスが詐欺師であることは、私と大臣以外には秘密にしていたはずなのだが、どういうわけか、そなたは初めから気付いていたようだな」
まさか、ここは『裸の王様』の世界で、わたしは前世で絵本を読んでいたから知っていました、なんて言えるはずもなく、わたしは無言のまま曖昧に微笑む。
「そなたは、私がこのままだと裸でパレードをする羽目になると思って、危険を顧みず、詐欺の証拠を掴もうと頑張ってくれたのだろう?」
「……はい、それはあまりにもアレだと思いまして……」
「たしかに、国王がそんな姿で国民の前に姿を現すのはマズイな」
ベルナルド陛下も自分で想像して可笑しくなったのか、若干肩が震えている。
とりあえず、仕事をサボって怪しい行動を取っていたことを怒っているわけではないみたいだけど、念のため確認してみる。
「あの、わたし、クビになったりしませんか……?」
「そなたをクビに? まさか。むしろ忠義と勇気を称えて褒賞をとらせようと考えていた」
「ほっ、褒賞ですか!?」
なんという棚からぼた餅的展開。国から褒賞だなんて、実家の家族も喜ぶに違いない。
ホクホク顔で喜んでいると、ベルナルド陛下が意味ありげに微笑んだ。
「ところでリーゼロッテ嬢」
「はい?」
「ぜひそなたに勧めたい仕事があるのだが、転職する気はないか?」
「え? まあ、お給料など待遇次第では……」
唐突な転職の勧めに戸惑いつつも、より待遇のいい仕事に就けるのならばと真面目に返してみる。もしかして、ストーキング活動に光るものを感じて、スパイに勧誘されているとか?
そんなことを考えていると、ベルナルド陛下が楽しそうに笑った。
「待遇については心配いらないよ。国で一番いい待遇の仕事だ」
「そんなにいい仕事に就かせていただいてもよろしいんですか?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます! ちなみに、何のお仕事ですか?」
もしかして、スパイですか? と尋ねようとしたのを、ベルナルド陛下の美声が遮った。
「王妃の仕事だ」
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