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熱い。 喉が痛い。目が痛い。息が苦しい────。 燃え盛る炎が全てを飲み込んでいく。美しかった庭園も、離れの書斎も、祖母が大切にしていた掛け軸も。 真っ赤に染まっては黒くなる。無我夢中で階段を駆け下りたが、屋敷の中には誰もいなかった。皆無事に逃げ出せたのか、それとも……。 「……ごほっ!」 とうとう息を吸うこともできなくなった。 柱に手をつくが、次第に力が抜けて崩れ落ちる。 誰か……。 助けて、という言葉すら出てくれない。 かろうじて持ち出した紅の羽織りを握り締め、瞼を伏せる。 もう駄目だと思った。その瞬間、身体が宙に浮いた。 「う……」 誰だ? 煤と熱気で痛む瞼を開けると、見知らぬ青年に抱き上げられていた。 いや……この人、どこかで見たことがあるような。 「いい子だ。もう大丈夫」 とても綺麗な人だった。彼は優しく微笑むと、額に口付けを落とした。 「ずいぶん待たせてしまったね。……白希」
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