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「ただいま~」
「おかえりなさい、宗一さん」
夜、玄関から声が聞こえて足早に向かう。宗一さんが車のキーをトレイに乗せ、疲れた様子でため息をついた。
いつも疲れてるはずだけど、それを表に出さない為珍しい。
「お疲れ様です。お仕事、大丈夫でしたか……?」
差し障りのない程度に尋ねると、彼は上着を脱ぎながら笑った。
「うん、久しぶりに大きなクレーム案件が発覚してね。岐阜まで行ったから、中々疲れた」
ウチが悪いから仕方ないけどね、と付け足し、彼はネクタイを緩める。
「そのぶん白希に癒してもらおっかな?」
「え。ええ! もちろんです、任せてください!」
一時間後。前から挑戦したいと思っていた特大フルーツパフェを作り、宗一さんに差し出した。
大量のホイップクリームに優しく受け止められる、苺やマスカットといったフルーツ達。これは相当な癒しとなるに違いない。
宗一さんは最初こそテンション高かったけど、パフェグラスの真ん中に辿り着く前にスプーンを置いた。
「すっ……ごく癒された」
「良かったです~」
「うん、本当にありがとう。……それで悪いんだけど……ちょっとお腹いっぱいになっちゃったんだ。白希、残り手伝ってくれないかい?」
宗一さんは両肘をテーブルにつき、深刻そうに零した。
食後ということもあるし、彼の残りは有り難く頂いた。最後の一口を食べ、両手を合わせる。
「ご馳走様でした!」
「白希の食べっぷりはいつ見ても良いね~。そういえばたくさん食べても全然太らないし、大食いファイターになれるかもね」
「ええ、それは言い過ぎですよ。でもこのパフェなら三杯は余裕でいけると思います」
「本当になれそう……」
宗一さんの独白に気付かず、食器を片付ける。お風呂の準備をしようと考えて踵を返すと、振り返りざまにキスされた。
柔らかい唇が吸いついてくる。彼の顔が離れていく様子がスローモーションみたいだった。
「甘い」
唇を舐め、微笑む彼はひどく色っぽい。こっちは猛烈に恥ずかしくなり、慌てて離れた。
「下手したらぶつかって怪我しちゃいますよ」
「私は平気だけど、白希は軽いから危ないね」
ほら、と身体を引き寄せられる。でも不自然なほど足の裏が浮いた。体が軽過ぎる。
「今、力を使ったでしょう?」
「え~? 何のことかなあ」
「もう。さすがに分かりますよっ」
あからさまにふざけてる宗一さんの頬を、優しい力でつまむ。すると彼も可笑しそうに笑い、降参のポーズをとった。
「駄目か。最近の白希は黙せないことが増えて困ったな」
妻を騙すようなことはあまりしてほしくないけど、彼の嘘はいつも優しく、小さいものだから……正直ちっとも問題じゃない。
それより、ささいなことで笑い合えることが楽しい。
「食後の運動、します?」
「ちょっと色気のない誘い方だけど……もちろん、する」
直球かつ唐突だけど、俺の方から彼を誘った。不思議と甘いものを食べると彼に触れたくなる。
ベッドになだれ込み、二人でシーツの波に溺れた。
明かりを落とし、ナイトライトのみつけていた。宗一さんの表情がはっきり分からない分、声や感触の方に意識が向き、敏感になる。状況によって感じ方が全然違うのだと、改めて気付かされた。
いつもより手を伸ばし、宗一さんの腕や胸に触れる。皮膚の硬さや、内側にこもる熱。それがまるで自分のもののような錯覚に陥る。
「あっ!」
対面座位で彼の胸に舌を這わせたとき、仰向けに押し倒されてしまった。その拍子に彼の性器が抜けてしまったが、またゆっくり挿入される。
「……そんなに吸い付かれると嬉しくなっちゃうから、ほどほどにね。白希が辛くなると思うよ?」
腰を持ち上げられ、お尻が彼の太腿に乗る。薄暗いけど、彼からは全て見えてしまってるんだろうか。
俺の恥ずかしいところ、全部……。
「良いんです。だって、俺も貴方に触りたいから」
彼の頬にそっと触れる。繋がってるだけじゃ物足りない。そんな風に思うなんて、自分も随分変わった。
彼も同じことを思ったらしく、短い笑いが聞こえた。
「それじゃ、今夜もいっぱい触れ合おう。私と君だけの世界で」
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