硝子玉

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上手く言えないけど、それこそ言葉では説明できない絆で結ばれている。 自身の直感を信じることも大事だ。頭で考えるのではなく、魂の赴くまま……。 「やっぱり、白希は強くなったね」 「……ん」 唇が重なる。息が苦しくて口を開けたとき、彼の柔らかい舌が潜り込んできた。 飲んだことはないのに、まるでワインを飲んでるみたいだ。少し苦くて、でも甘くて。頭がぼーっとする。 「俺……本当に強くなってるんでしょうか」 「なってる。私が保証する」 あまりに真剣な面持ちで返された為、思わず吹き出した。 「あははっ。宗一さんがそう言ってくれるから……信じますね」 ぬれた目元を指でこすり、彼の唇に吸いついた。 「宗一さん。何度でも言いたいんです」 「何を?」 「俺を迎えに来てくれて、ありがとうございます」 胸を押さえて、顔を上げる。 兄の前では心配させないよう毅然としていたけど……今は抑えられない。感謝の気持ちでいっぱいだ。 「とっ、ところでひとつお願いがあるんですけど」 藪から棒に、困惑させると思ったものの、白希は俯いてソワソワした。 「何だい?」 「ええと、その……俺も、ちょっとだけお酒を飲んでみたいんです。でも、まだ駄目なら大丈夫です!」 ガチガチではあったけど、勇気を出して頼んだ。 迷惑を掛けてしまう可能性もあるし、駄目ならそれでいい。恐る恐る瞑った目を開けると、彼は可笑しそうに笑った。 「あはは! 一体何事と思ったよ。飲み会にも行ってたし、そろそろ飲みたいよね。ちょっと待ってて」 宗一さんは肩を揺らしながら立ち上がり、新しいグラスをひとつ持ってきた。冷えたワインを入れ、俺に差し出す。 「どうぞ」 「わぁ……ありがとうございます!」 わくわくドキドキしながら、くいっと仰ぐ。少し苦味はあるけど、炭酸だから口の中に残らない。多分、普通のワインよりずっと飲みやすいんだろう。 ただ、これがお酒の中で“美味しい”のかどうかは分からない。 「そんなに美味しくないでしょ」 「え!? いえ、そんなことは!」 「無理しなくていいんだよ。初めてのお酒がすごく美味しい! って感じることの方が珍しいから」 宗一さんは隣に座り、自分の分も注ぎ足した。 確かに、経験値がないのにお酒の美味しさなんて分かるはずがない。後は味が全てだ。デザートカクテルでもない限り、慣れない味と匂いに警戒してしまう。 「で、でも飲めないことはないです!」 「こらこら、そんな一気に飲まないの」 宗一さんの制止も振り切り、グラスを空にした。 「もう一杯お願いします」 「しょうがないなぁ……今度はゆっくり飲むんだよ? ビールならともかく、ワインは香りを楽しむものだからね」 そうなのか。それは悪いことをしてしまったて……。 謝りながら、今度は香りも意識してみる。フルーティで、何だか複雑。 「う~ん……」 「ははは、せっかくだから赤も飲んでみる?」 今度は棚から赤ワインのボトルを取り出し、別のグラスに少量入れてくれた。それを飲み、思わず口元を手で塞ぐ。 「うぐ……っ」 苦みと渋みの嵐だ。飲み込もうにも、喉がそれを拒否する。でも隣で宗一さんが笑みをたたえている為、何とか飲み込んだ。 「ふふ、どう?」 「すみません……こっちの方が百倍飲みやすいです……」 項垂れながら元のスパークリングワインを飲み干した。またペースが速い、と頬をつつかれる。 「ワインはまだ飲まなくていいよ。白希には、今度飲みやすいサワーとかを買ってきてあげるから」 「あ、ありがとうございます」 「頑張ってたみたいだけど、何かあった?」 宗一さんは前に屈み、意味ありげに微笑んだ。顔を見合わすと鼻先が触れそうになって、全身が熱くなる。 ……俺の考えも、何だか見抜かれていたみたいだ。 「酔ってみたくて……」 「ほ~う? どうして」 「頭がぼーっとしたら、恥ずかしい気持ちとか、少しなくなってくれるでしょう?」
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