ウィスタリア・モノローグ—藤色の独白

3/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
それが… 年が変わってすぐ 流行り風邪に罹り どんどん弱っていった。 そして 春を迎えた今… 身近に侍るものだけは 気づいていた。 つまり藤壺は 体の病というより 生きる気力を無くすという 心の病に罹っていることに。 藤壺は 自らの死ぬことばかり 願っている、と。 食事も摂らず 幼い帝(自分の息子 冷泉帝)が心配して 医者に届けさせる薬湯すら口にしない。 実家でも 内裏でも 藤壺の病気平癒の祈祷をしているが 藤壺自身は 今生が終わり 来世の往生ばかり 密かに祈っている。 美貌も痩せて面変わりし 床に臥したまま 明け暮れている 古参の側仕たちが あることを提案した。 藤壺が子供の頃から 乳母のように頼った女 楓の命婦(かえでのみょうぶ)が 今は宮廷を下り 孫に囲まれて 田舎で暮らしているので 静養しにいくのはどうだろうか、と。 藤壺自身、実はそれを望んでいた。 親よりも懐かしい楓に 死ぬ前にもう一度会いたいと思われた。 それに 死ぬ前に どうしてもしておきたいことがある。 (今しか、ないわ) それで 表向きは里帰りとして 楓の命婦の 田舎の屋敷に向かうため その日藤壺は這うようにして牛車に乗り込んだ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!