彼との出会い

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 (耀さん、なつりさん、なくるちゃん、弁天に最後にお別れ言いたかったなぁ……。 あ、しゃぶしゃぶ食べ放題行きたかった……)  そんな事を考えていたら。いつの間にか相手が目の前に来てたんです。  彼とは頭二つ分の身長差で見下ろされている中。リーゼントの髪だから前髪が影になってて表情が分かりにくい。  殺されそうな瞬間。思わず身体が強張り、一瞬目眩がした。  自分でも分かるくらい血圧が下がっている感覚。 「……嬢ちゃん。名前なんて言うだァ?」 「……へ?神龍時 風羅です」  予想外の出来事と質問に、素っ頓狂な声色ととっさに出してしまった個人情報。  ーー 後の祭りとは、この事だった。 (……私の馬鹿ァァアア!!何で、返答してしまったのッッ!!? あ……もう、詰んだよ、詰んだ!!詰んでれら〜♬皆様、私のノーマル人生終了のお時間がやってきました。ご静聴、ありがとうございました〜)  また、〈THE・ようこそ!自分の世界〉に入ってる最中。今の私は、百面相だろう。  目の前の彼から小さな笑い声が聞こえた。咄嗟に無駄な抵抗で俯いていた顔を上げてしまう。 「……シンリュウジ フウラか。そうかい、おめぇ〈フウラ〉って言うのかァ……」  オウム返しをし、小さく笑い続ける彼。  でも、端から見れば不気味以外何も無い。この時の私は、若干ドン引きしていた。 「この俺が、目の前の女になァ……ククッ」  か細く独り言を呟き、肩を震わせて笑う彼。 ………… (………やっぱり。あの時、救急車を呼んで早く、【この精神病患者(仮)】を引き取って貰えば良かったッッ!! もうさ……ここまでくると、ある意味怖いレベルだってばぁッッ!!!)  酷く後悔した瞬間だった。 (自己紹介した後に、コレはおかしいでしょう?)  普通は無いよッ!ありえないからッッ!!  見た目がヤンキーで初っ端から警戒心高めなのは、まだ一万歩譲って良しとする。が、今この現状は、ガチヤバ糞リーゼントしかないわ……。  とりあえず、さよなら……私の人生。  最後に今できたて、デザートのアップルパイをワンホール五枚は食べたかった……。  「おい!フウラッッ!!」  引き続き、一人で走馬灯を駆け巡り、自分の世界に浸ってた私。  相手からの威圧的な声に、我に返る。  先程までと違う不気味な圧になっている彼。無意識に呼吸を忘れてしまうくらい、喉から「ヒュッ……」と小さく音が出てしまう。  私は最後の覚悟を決めキツく、目を閉じた。  左頬に暖かい物に包まれてゴツゴツした感覚が広がり、直感的にお兄さんの手だと分かった。  数秒後、唇にも温かく柔らかい物を感じる。  恐怖一色が消え、疑問の湧水が溢れる。驚きのあまり閉じていた瞼を、とっさに勢いよく開く。 「一度しか、言わねぇからなァ……」 ーー 嬢ちゃん、一目惚れした。俺と付き合ってくれ!!  そこで私は、(お兄さんからキスされて、告白されたんだ……)と、回らない頭でなんとか理解をする。  そして、私にとって人生初めての〈ファースト•キス〉。   「と……とりあえず、一緒にご飯食べません?」  突然の出来事に対して、私にとって最大級の精一杯の言葉だった。  これが私と彼が出会った初日の出来事。  私の世界が、〈180度変わった日〉になったのです ーー
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