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彼との出会い
◇◇◇
「私、【神龍時 風羅】には ーー最近まで恋人がいました」
彼との出会いは、五年前の正月。
ーー 逢瀬の魔と言われる時刻。
うちは両親が仕事で海外に出張中の為、六人兄弟で住んでいます。兄弟達は出張などで、その日から暫くは私一人でした。
そう!暫くの間、私だけしか居ない!!
自由な時間がきたーーッッ!!
と、いうことで……。
久々の一人の時間に嬉しくて、作りたかったお菓子の材料を買ってしまいました!
多兄弟だと早い物勝ちという無言のルールがある為、それを一人で食べれるというのは贅沢な時間なのです。
「さぁ、帰ったらアップルパイ作って食後のデザートにワンホール〜♪……ん?」
もうすぐ家に到着しようとした時。玄関前の塊、視界に入る。かけていた眼鏡を拭き細目で見ると。
知らないお兄さんが気絶をしていた。
私は急いで車から降りて、声をかけても意識が無い状態。このまま外で倒れたままだと悪化すると思って、急遽自宅内に担いで安静させました。
今思えば……、必死だったんだよね。目の前の人を助けたくて……。
その後、二階の自室内にて。
「……お兄さん、救急車を呼びますからね。もう少しの辛抱ですよ!」
救急車を呼ぶ為。部屋を出ようと後ろを振り向いたら、いきなり刃物が横切る。
「おい……、眼鏡の嬢ちゃん。
此処まで運んで寝かせてくれたのは礼を言うが……。俺はそこいらの野郎みたいに柔じゃねぇから余計な事をするなァッ!
もう少ししたら帰るからよ、[救急車]とかいうヤツを呼ぶんじゃねぇ!!」
突然の怒涛声が響き渡る、自室内。
(耳が痛い……。私さ介抱したのに、何で文句言われなきゃいけないのッ!?)
そう思いながら、彼の方へ振り向く。
奇抜な髪型だけど、昭和の名残を感じさせるリーゼント。抜け目のない垂れ目に、白目が灰色に濁っている。
ベットから起き上がった状態で、シンプルな形をした一本刃を、こちらへ向けていた。
これが、私と彼のーー 初めての出会いでした。
視線が、絡まった刹那。
目が離せない一時。互いの視線の糸が絡まり、深く、根深く、絡み合う感覚が浸透する。
不思議な感覚だった。
今でも覚えているもの。インパクトが強かったからね。
この頃の私は、この感覚の〈名前〉が分からないままでした ーー
この時は感情的になっている彼の言葉に従った方が良いと判断し、頷く。
「……分かりました。お兄さんが落ち着くまで安静してて大丈夫ですよ。
私は下で夕飯の支度してますので何かあったら声をかけてくださいね。
あ、もしお腹空きましたら一緒に食べましょう!
元気になってから帰るってのも有りですよ!!」
私がマシンガントーク……じゃなくて〈普通に〉笑顔でそう伝えた後。下の台所へ向かいました。
だって、彼の体調が回復したら、お腹空かせるだろうと思ったからね。
それに……あの頃は、彼の事を悪い人に思えなかったんだよね。見た目がアレでも。
◇◇◇
ご飯の支度をしようと一階へ行き、眼鏡を外し台所でお夕飯を作っている最中。二階から降りてきた彼。
「お兄さん、体調の方は大丈夫ですか!?
無理しない方が良いですよ?」
台所の入り口前にいた彼に伝えたら、電池が切れたように停止してしまった。
その様子に不思議に思った私は、「大丈夫ですか?」と聞こうとしたら。いきなり相手を射殺す睨み、恐怖で声をあげる事もアウトな重い圧を発して近づいてきました。
しかも、ーー無言でだ。
うん、怖い以外何も無いよ。アレは。
今となっては、笑い話だけど。
他人からしてみたらヤンキーが善良な市民からカツアゲしようとするシーンしか見えないのだから……。
あまりの怖さで、頭の中がパニックになりました。同時に。
(あ……、私死ぬんだ。此処で。しかも、一人で)
〈死〉を、覚悟をした瞬間でもありました。
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