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彼女から見た世界
◇◇◇
「……そんな事があったんですね。初日から……」
彼女、風羅から初日の出来事をメモ取りながら聞いていた金森は唖然とした。しかも、返答しづらい内容に当たり障りない言い方しかできない。
それは、そうだろう!介抱してあげたのに、刃物で脅して救急車の連絡も拒むって……。
ーー ヤクザと同じじゃんッッ!!
「そうですね〜、私もそう思いましたもの。訳アリの人なんだなぁ、って」
「え!?私、声に出て……ました……?」
「はい。バッチリと☆」
その返答に、ライターとして絶対にやってはいけない事をやらかしてしまった金森。
頭の中がフリーズし、体内の温度が分かりやすく急激に絶対零度になっていくのを感じた。焦りに焦って思わず顔を俯かせてしまう。
直後、謝罪をした彼女。風羅は気にしている様子も無く寧ろ、この場を楽しんでいる笑顔だった。
「大丈夫ですよ、金森さん。
私ね、金森さんのそういうところ好きですよ。初対面の人に言うのも変ですけど……」
「……へ?」
「この世の中、キツネとタヌキの化かし合いじゃないですか……。
腹の探り合いで、良い人キャンペーンの仮面を被って生きていく。
正確には、【仮面を被って生きていくしかない、ご時世】……と言いましょうか。
自分をよく見せようと〈素〉を曝け出せない人生に、なってますからね。ちょっと晒したら攻撃されてしまう。
例えば、そうですね……〈SNS〉とかが良い例かな?」
「……確かに」
「金森さん、ここからは私個人的な意見ですが世の中一番怖くて、哀れな生き物って……」
ーー 人間、だと思いますよ?
彼女からの確信的な言葉に、金森は言葉を詰まらせてしまった。穏やかな声色が、この空間に溶け込む。
彼女の言い分は、この世の中の ーー〈事実の一つ〉
だから、胸を貫かれたのだろう。内心、複雑な思いをしながらの金森は、更に続く彼女の言葉に耳を傾けた。
「だから、金森さんのような素直に表現する人って安心できるんです!
今回の特集……〈私の彼氏〉も、そうなんですよ。言い方は乱暴だけど……。
【自分を飾らない素直さ】が、相手を良く見せようとする仮面被っている人より魅力的に感じた。
これから先ずっと、この人と一緒にいたい。住む世界が違くても!って私は決めたんです」
他人がなかなか言えない、真実味のある言葉。
金森の胸を更に奥深く貫かれた。それは、先程の陰りのあるモノでは無く、
他者の、ーー【本質】を知る。
彼女が〈今の彼〉を決めた内容は、相手をちゃんと知ろうとしなければできない事だ。
(……コレは、口では何度でも言えるけど行動に移すのは難易度高い事なのに……この人は)
金森は、胸の奥からじんわりと震えたたす熱さに目頭が熱くなる。久々の感動を直ぐに蓋をし、仕事モードに戻る。
「……その後、彼とはどうなりましたか?体調回復した後、彼は自宅に帰られたんですか?」
「いえ、相手が回復するまで……実家で三ヶ月間、看病しました。回復後、私達は他県へ引越ししたんですよ」
「……え?そうなんですか!?」
これは意外な展開!?
「そして約一年後、彼は忽然と消えました」
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