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二人のケジメの結末は
驚愕の一言。
絶句を通り越して一瞬、呼吸が飛んだ。
金森の喉に出かかっていた次の質問が消える。そして、彼女の言葉は続く。
「彼が失踪して一週間。彼と妖魔の王である彼の父が、首相と話し合いに行ったそうです。
『どうか、〈妖魔と人間〉の同棲だけではなく婚姻も認めてやってくれないか』
、と。
たぶん、私達の間に子供ができた事を知ったからでしょうね……」
更に言葉を続ける、彼女。
「それからは、攻防戦が始まりました。お二人は、ほぼ毎日話し合いに。私は、妊婦の状態で彼の帰りを待っていました」
「……不安じゃありませんでしたか?一人で待っていたんですよね??」
その質問に、風羅は困ったような笑顔。
「大丈夫と言ったら嘘になりますね……。
本音で言うと、妊婦時で周りに助けて貰ってましたが、〈本当の一人の時〉は心細かったですね」
ーー 彼に、会いたくて、会いたくて堪りませんでした
「でも毎日、彼から連絡があったのが唯一の救いでした。だけど、彼らの話しが良い方向にいく気配は無かった。
なので、私は日記を書きました」
「……日記、ですか?」
「はい、そうです。日本は、妖魔を恐れている。
それだったら、私達人間と〈同じ暮らしができる〉という証明として妊婦時期、出産時、育児日記をノートに詳細を毎日記録しました。
たぶん……三十冊以上くらい?」
「え!さ、三十冊ッッ!?」
「それらを、snsに投稿したら皆さん怒って税金を払わなくなりましてね。
国がやっと根負けしてくれました。
子供が五ヶ月になる手前だったでしょうか。
首相から、『一度、お子さんに会わせて欲しい』と声を頂き、会って貰いました。
その後は、金森さんの知っている三年前〈改正された内容〉です」
「……【異種間婚姻制度】、の決定」
咄嗟に出た金森の独り言の声量に、目の前の彼女は答えとして穏やかに微笑み返す。希望の言葉が、胸の奥を震わせた。
彼女は、カップルの難関を壊したのだ。
しかも根気のいる作業。覚悟を決めないとできない事。
「国が新制度を発表した直後、彼は帰って来ました。やっと、彼に会える事ができたんです。
あの時の事は、今でも鮮明に覚えてる。本当に、嬉しくて涙が溢れましたもの。
その後、私達は夫婦として籍を入れる事ができ、一緒に暮らせてます。子供が、認識できる時期に父親がいないのは不憫でしたし。それに……」
ーー 夙夜夢寐。私ね、彼の事をずっと……ーー
「(夙夜夢寐……?)あの、神龍時さん。申し訳ないですが、より詳細を……」
疑問に持った金森、更に問い詰める。
「オイ、もうそこまでで良いだろ?ココから先は聞くのは野暮ってもんじゃねぇか??取材の姉ちゃんよォ」
突然の男性の声。
金森の頭上から、地から這い上がるテノール調の声色が空気を震わす。声だけで分かる、コレは〈怒り〉だ。
突如、取材が中断され恐る恐る見上げると。リーゼントの髪型の男性が、ガン飛ばすような垂れ目で睨んでいた。
押しつぶされる重圧の中。その視線が金森の身体全身に突き刺さり、声どころか呼吸もままならなくなる。直後、痙攣を起こし過呼吸を起こす直前だ。
蛇に睨まれた蛙 ーーという状況である。
「あれ?あなた!?どうしたの??こんなところで!」
こんな空気の中、場違いな程の向日葵のような明るい声が重い空気を壊す。
泣きそうになっているライターの彼女。過呼吸になりかけていた震えが、ピタリと止まる。
風羅からの声かけに男は、視線をそちらへ移し、無遠慮に隣へ座る。
「……おめぇが、なかなか帰って来ねえからだろ。病院から言われただろ。今は、無理するな、ってよォ……」
(この人が旦那さんッ!!?ん?今は、無理するな……とは??)
突然現れたリーゼント男から出た発言に眉を寄せ、疑問の沼に嵌る金森。
急な展開に、状況が掴めず思考内のスクランブル交差点が混雑し、困惑している中。
彼女の様子に気がついた風羅。
「すみません。金森さん、状況掴めないですよね?あの、実は私のお腹の中に……」
風羅からの予想外の発言。
ライター金森の叫び声が店内だけではなく、外にも響いた。この後の展開は、別の話しにて☆
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