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ここにいたい。
明日もここに、いておきたい。
だって、アノネが帰ってくるかもしれないから。
何か用事を思い出して、僕に何か手伝ってほしくて、また戻ってくるかもしれないから。
「アノネ」
思わず口をついて出てくる言葉。
すると、また熱が出そうになる。
「アノネ」
きっとこれはウィルスだ。
アノネが持ち込んだウィルスに違いない。
ならば、取り除く必要がある。
でも、耳が覚えているし、目が覚えている。抱きしめられた僕の背中も。
だから除去しようとすれば、僕をまるごと消さなければならない。まるごと全部。
そしてそれは、とても困る。
「アノネ」と口に出さないようにして、やっとのことで一日が終わった。
月明かりが夜を照らす。
窓の方を見る。アノネが眠っていた場所だ。
ふと気がつくと、そばの棚に手袋があった。アノネが僕にくれた手袋。
僕は、その手袋を窓のところまで持って行き、外から見える場所に手袋を置いた。
外から見えるように。
アノネが戻ってきた時、見えるように。
きっと、アノネは戻ってくる。
きっと、いつか。
それまで僕は、ここにいよう。
アノネが戻ってくるまで、ここにいるんだ。
そう決めた。
そしたら、体がまた少し熱くなった。
おわり
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