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「私のせいです。もっと早い段階で副島さんの無実を知り得ればこんなことにはなりませんでした」
ミツは複雑だった。取り押さえたのは目の前の男でも副島の死に関わったのは別の男。むしろこの男が副島を殺したのならこの場で怨み殺してやりたい。
「俺は運がいい、あんたのデカい同僚に追われてよ。副島は不幸だぜ、あいつは付き合っただけで追われて殺されてよ」
富田が並木を罵倒した。何を言われても弁解のしようがない。頭を下げている以外に出来ることはない。
「今晩は付き合わせてください」
並木は白木の箱に手を合わせ正座した。夜が明けるまでこうしていよう。これが今の自分に出来る思いと信じた。そして夜が明けた。冨田は軽い鼾を掻いている。ミツは棺桶に伏していた。並木は立ち上がるとふら付いた。正座で足が痺れている。悲しいミツの背中に声を掛けることも躊躇った。小さな石油ストーブが消えかけている。嫌な臭いは芯に火が回っているのだ。並木はストーブを消して灯油を足した。燻った煙は赤い炎に変わった。鼻を鳴らして富田が起きた。
「臭いなストーブ」
「芯が燃えてました」
並木が答えた。
「おばあさん、風邪ひくよ」
富田は並木を無視してミツを労った。返事がない。
「おい、ばあさん、ばあさん」
ミツが動かない。冨田は肩を揺さぶった。
「どうしました?」
並木がミツに寄る。息がない。
「救急車を呼んで」
並木はミツを仰向けにした。気道を確保して人工呼吸。しかし息は吹き返さない。心臓マッサージを続けた。
「おばあさん、しっかりしろ、おばあさん」
富田の声が耳鳴りのように聞こえた。ミツの意識が戻ることはなかった。
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