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「海で良子さんが待ってる。今度は嘘吐くな」
背を水面に出した日浦に叱咤した。徳田は道路を反対側に移動する。
「タクシー」
空車にソフトを振った。ウインカーを点けて停車した。
「新潟駅」
「あれ、もう一人のお客さんは?」
さっきのタクシーだった。
「急ぐらしい」
「そうですか」
ウインカーを上げて走り出した。
中西は大岡興行の社長から未成年の女を連れて来るのがインド人だとの情報を得て日印貿易興商を訪ねた。やくざの情報は慎重に考慮すべきだが替え玉と言う土産を差し出した大岡が嘘を吐くとは思えなかった。
「社長はいますか?」
中西はドアを半開きにして事務員に声を掛けた。中西の声は社長のRamまで聞こえた。Ramが立ち上がり中西の前に立った。インド人の平均的な体格なのかどうか中西より上背がある。
「なんですか?」
インド訛に吹き出しそうになった。軽蔑しているわけではない。子供のころに首を肩の上で左右に振って『インド人もびっくり』とふざけていたのを想い出したからである。手帳を翳した。
「少女売春事件でお話を伺いたいのですが?」
ストレートに言った。関係ない者と関係者では反応が違う。中西はRamの顔をじっと見つめた。
「私は知らない」
関係者だと断定した。Ramも中西に感付かれたと確信した。
「知らないってまだ何も訊いちゃいませんよ」
「何でも協力すると言う意味です。5階に行きましょう」
エレベーターに乗った。中西はRamの後ろを歩いた。後ろから羽交い絞めにされたら太刀打ちが困難と判断したからである。Ramも中西の警戒を感じている。中西は拳銃を携帯していない。携帯していても大した役には立たない。射撃の腕はからっきしで撃てばどこに弾が飛び出すか分からないほどである。Ramが大きな南京錠を開けた。
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