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「神様、ありがとう」
トランクを開けると若い女が丸まっていた。糞尿に塗れている。箪笥の虫除けはこの臭い消しに使われていたのだろう。
「さあ」
中西が抱え上げる。
「傷は無いか?」
長い時間同じ姿勢でいたので身体が痛い。だがどの部分が痛いのか分からないほど麻痺していた。
「さあ、座って」
椅子に座らせる。
「おじさんは警察だ。君を助けに来た。もう安心だ」
その言葉と警察手帳に安心した少女が泣き出した。
「恐かったろう。もう大丈夫だ」
一刻も早くここから連れ出して病院に連れて行きたい。しかしスチールのドアを蹴破ることは出来ない。中西は窓を塞いでいるベニヤ板を椅子の足で叩いた。角が捲れた。そこに指を入れて剥がす。メリメリとベニヤが剥がれていく。鉄線入りの曇りガラスが現れた。椅子で叩き割る。鉄線でぶら下るガラスを更に叩いた。隣のビルの壁がある。その隙間2尺。下を見るとブロック塀が二棟の真ん中を間仕切っている。墜落すればブロックに叩き付けられる。もう一面のベニヤも捲った。ガラスを叩き割ると隣のビルのトイレだろうか、小さな窓ガラスが嵌められている。距離は2メートル。投げる物を探した。椅子を叩き壊して足を投げた。窓ガラスに当たるが割れるに至らない。キッチンにガスレンジがある。元栓を締めてホースを抜いた。
「それっ」
ガスレンジを投げ付けた。窓ガラスが割れた。割れた部分に空き瓶をぶつけて広げた。
「おおい、おおい」
力の限り叫んだ。首にタオルを巻いた男が割れた窓ガラスを見上げた。隣ビルの管理人である。
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