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「毎度どうも。インド人のご婦人にお会いになれましたか?」
弁当屋は徳田を覚えていた。さすが商売と徳田も感心した。
「ああ、ありがとう」
「よろしくお伝えください」
「ああ、彼女からあなたの弁当の噂を訊いたんだ。新潟に寄れば心配しなくても買うに決まってる」
「ありがとうございます。あの時も二つ買ってくれたんで喜んでいただいてるなって感じました、嬉しいです」
「二つ?」
「ええ二つ買ってくれました。賞味時間がありますから早めに食べていただくよう言いました」
ニーシャは一人で横浜に戻ったはずである。
「彼女、一人だったんだよね?」
「はいお一人でした。それで弁当の時間が心配になりました」
一人で二つ食ってもおかしくない。だがもしかしたら坂本涼子に差し入れしたのではなかろうか。徳田は疑問に感じた。このままやり過ぎしてもいいのか。改札を出て新潟西市民病院に行った。涼子は遺体安置室にいた。涙も枯れたのだろうか丸椅子に座ってぼーっとしている。祖父が涼子の肩に手を当てている。
「少しお話を訊いてもいいでしょうか?」
徳田は祖父に訊いた。祖父が涼子の肩をそっと叩いた。涼子が徳田を見上げた。
「あたしが黙って家を出たから?」
涼子は自分を責めていた。
「違う。お母さんの運命だ」
「でも、あたしがあの人と別れて欲しいから」
「それも含めて運命だよ。戦争でたくさんの人が死んだ。それは誰かのせいなのかな?誰かのせいすることが出来ないことがたくさんある。それが運命なんだ」
「でもお母さんだけが死んだ。あの人はうちの土地を奪って逃げた。うんう、土地なんかいい、ここに来てお母さんの前で泣いてくれればいいの」
涼子が想い出したように泣き出した。
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