58人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼にお母さんの死を告げた時に、泣いていた」
「ほんとに?それじゃどうして来てくれないの」
「お母さんを追い掛けて行った。もう二人きりだ」
涼子には意味が分からない。
「ところで涼子ちゃん、君が横浜に向かう日、サーシャさんと会ったかな?」
涼子が頷いた。
「サーシャさんは指定席だったから席は別だったけどお弁当を差し入れしてくれました」
「その時何か言った」
「横浜に着いたらうちの会社に来てねって住所を教えてくれました。友達が待ってるからって」
「それで会社に行ったんだね?」
「はい、そしたら朝鮮人のおばさんに横浜を案内してもらってまた会社に戻りここで待つように言われてそのまま閉じ込められました」
やはりサーシャとユジンには繋がりがあった。涼子をユジンに紹介したのもサーシャだろう。ホームレスの更紗と言う言葉、それをユジンの更紗かんざしと決めつけたのが早とちりと徳田は唇を噛み締めた。瀬端はずっとサーシャが怪しいと言っていた。ベテランの勘が真実だった。
「徳田さん、血が」
唇から血が滲んでいた。ハンカチで拭き取り微笑んだ。
「坂本さん、土地は戻ります、ご安心ください。出来る限りお孫さんと百姓を続けてください」
祖父が驚いている。
「探偵さん、帰るんですか?」
「もう一仕事ある。お母さんから依頼金をいただいているからね。中途半端じゃ終われない」
徳田は一礼して新潟駅に向かった。横浜に戻ったのは深夜だった。最終の乗り継ぎで戻れたのは運が良かった。事務所には寄らずに元町に行った。サーシャの自宅である。インターフォンを鳴らすも音沙汰がない。深夜2時を回っている。一般的な用向きなら迷惑だろうが、誘拐犯にそんな遠慮は無用と鳴らし続けた。
最初のコメントを投稿しよう!