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「うるさいんですけど」
隣の婦人が出て来て文句を言った。ベルの音は中と外に同時に知らせるスピーカーが付いている。庭が広く外にいる時の訪問者にも対応出来るようになっている。
「これは失礼、ですが急用です。命に関わる急用です」
ここまで言えば仕方ないと諦めるだろうと思った。
「ニ三時間前にパトカーが停まってましたよ。多分一緒に行かれたんじゃないですか」
警察がサーシャをどうして連行したのだろうか。徳田には腑に落ちない。
「そうですか」
徳田は隣人の婦人に一礼してその場を後にした。そしてタクシーを拾い伊勢佐木中央署に向かった。署に入り、赤電話を借りて伊勢在中央署に電話を入れる。宿直当番が誰もいない受付の電話に出た。
「はい、もしもし」
宿直は数人いるが徳田がここからここに電話しているとは考えもしない。
「刑事の中西さんはいますか?」
「どちらさんですか?それに御用の向きを伺います」
徳田は口に手を当てている。
「少女誘拐の件で話があります」
「そちらさんは?」
「徳田と言います」
階段を駆け下りる足音がする。並木だった。
「中西に電話だって。あいつは今帰った。俺が出る」
並木が受話器を握った。
「もしもし、中西の相棒で並木です。どう言った話でしょうか?」
「私です」
徳田が受話器を置いて並木に歩み寄る。並木も受話器を下ろした。
「変な上段は止めてください。西はインド大使館に行きました」
徳田からの電話に応対した宿直が目を丸くしている。
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