都橋探偵事情『更紗』

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「それでなんだって」 「重田さんに一大事だそうです」  コートを掴んで革靴を突っ掛けて車に乗った。そして重田宅に行くと既にパトカーが二台赤色灯を回して止まっていた。 「明かりを消せ」  布川がパトカーの赤色灯を消すよう怒鳴った。  九段のインド大使館まで二人を乗せて来た。署長命令だった。 「この世の中、私がどんなに頑張ったってもどうにもならないことがある。ましてや私の下にいる君がいくらあがいてもどうにもならないことがたくさんある。公務員である我々が上から数えた方が早い立場にいる人達にああしろこうしろと言われたら従わないわけにはいかない。そしてそれが正義と捉えて勤めるのが正道である。この一件は条約と言う国と国の約束の上に成り立っている。君の馬鹿力でも打ち破ることは出来ない」  署長から説教を喰らった。しかし中西は納得していない。インド人がインド人に悪事を働いたなら大使館に任せるのも致し方ない。しかしインド人が日本人のそれも未成年の女子を監禁しトルコ風呂でサービスをさせていたとなれば大使館に遠慮する筋合いじゃないと憤慨している。 「お疲れさまでした。あの二人は大使館にお任せください。これ、ご足労していただいたお礼です」  中年の大使館員が車寄せで待っていた中西に流暢な日本語で言った。お礼の品はインドカレーのルーだった。 「あの二人はどうなるんですか?」  中西が質問した。 「さあ、詳しいことは大使が決定します。恐らく本国に戻りもう一度取り調べを受けるでしょう」 「甘いなそれじゃ、あの二人は大勢の少女を誘拐監禁し無理やりスケベなサービスをさせていた。女子のほとんどはシャブ漬けで元の身体に戻ることはない。ましてや精神が侵され生きる希望を失ってしまった。その責任はあの二人に取ってもらう」  中西の抗議に大使館員が笑った。  
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