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「それも含めて大使がお決めになります」
大使館員が不敵な笑みを浮かべた。いつの間にか五人の警備員が中西の車を取り囲んだ。鉄扉が開けられた。鉄扉の向こうに並木の姿が見えた。中西がゆっくりと車を移動する。鉄扉を抜ける前で一度停車した。
「お世話になりました」
中西が時間稼ぎをする。
「お帰り下さい」
大使館員が急かす。中西は鉄扉の袖に立つ並木に顎を振った。並木が頷いた。中西がクラクションを鳴らした。警備員の視線が運転席から手を振る中西に集中した。その一瞬に並木は身体を丸めてセダンの陰に隠れながら植木の中に飛び込んだ。セダンが出ると鉄扉が閉められた。閂が嵌められた。大使館員が中に入ると警備員達も自分の持ち場に戻った。
「お前何してんだ?」
セダンから降りた中西の前に徳田が立っている。
「依頼だ」
「依頼って?」
「インド人に用がある」
「ずいぶんと暴れたらしいじゃねえか、新潟のじいさんとタッグ組んで。並木から訊いたよ、それでじいさんどうした?」
「新潟に帰った」
「お前の出番は終わりだ、帰れ。道子待ってんだろう腹出して」
「道子は理解してくれてる。それこそ中途で辞めたら叱られる」
「おうおう、言ってくれんじゃないの。それでどうしようってんだインド人を?」
中西が肩の上で首を移動した。徳田は吹き出しそうになったが堪えてラークを咥えた。
「お前よう、あいつは止めとけ俺よりでかいぞ」
中西は徳田の仕草で魂胆が読めた。
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