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「男はお前に任す。あの女は許せない」
「俺はいいさ。だがあのチビは許さねえぞそう言う事は」
中西は鉄扉の向こうに顔を振った。並木は法に則って処理したい。
「彼はいい刑事だ。だけどいい刑事には出来ない仕事がある。それをやるよう俺は神様に命をもったんだ。娘は助かったが依頼人はトラックに撥ねられて死んだ」
「だけどそれはインド人のせいじゃないだろう」
「違う、インド人のせいだ。あのインド人が弱いもんの歯車を狂わせたんだ」
「お前、考え過ぎだ。帰って寝ろ」
中西は徳田の思い込みが心配になった。その時ボンネットに何かが落ちた。小石が載っていた。また飛んで来た。一回り大きい石である。
「ばか野郎、所長のセダンだぞ」
並木が鉄扉の前でうつ伏せにしている。
「どうだ?」
中西が小声で訊いた。
「玄関前に車が停まった」
並木が植木に塗れている。
「お前はカメレオンか?それとも枯れ葉に擬態したナナフシか?」
「ばか野郎、冗談言ってる場合か。こっちは命懸けだ。それにしても夜明け前から車で移動なんておかしかないか。もしかしたらあの二人を別の場所に移動するんじゃないか」
「有り得るな。よし、お前は玄関前で擬態して探れ」
「ふざけんな偉そうに」
文句を言いながらも並木は匍匐前進を始めた。
「なっ、いい奴だろう」
中西が徳田に相槌を求めた。
「お前の下に着いたら大変だな。俺なら続かない」
「俺の正義がみんなをそうさせるんだ。困ったもんだ」
徳田は呆れて口を噤んだ。
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