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「お前は少女の未来を破壊した。その償いはどうする?こうするんだよ」
中西は柔道の片羽締めを掛けた。苦しむラムは失神した。
「ばか野郎」
それは自分に言っていた。ここまでしか出来ない。こんなことをしても苦しんでいる少女達を救うことは出来ない。この悪党はやがて意識を取り戻しインドに帰る。それで終わり。並木を先頭にベンツの運転手と大使館員が走って来た。
「何をしたんだ」
「公務執行防害だよ」
中西がソフトを脱ぐとバケツをひっくり返したように血が落ちた。
「あ~あ、今日はレバ刺しだ」
中西のジョークは並木にしか通じない。レバーが血を作るわけでもないがそう言うまじないがある。
「連れて行ってください。大使館の息の掛かった方だ、我々にはどうすることも出来ない」
並木が言った。サーシャもラムも日本語が堪能であり、東京オリンピックの時から臨時の大使館職員に任命されている。これ以上問題を大きくしない方が中西の為でもあると考えた。
「女は」
大使館員が周囲を見回した。
サーシャは後ろを振り返りながら走った。土地勘がない、大使館を目指すが方向が逆だった。更紗のサリーが靖国の森で揺れる。サーシャが突然止まった。息が荒く驚くこともままならない。ハアハアと息をしながら指差した。
「あなたにはすっかり騙された」
大木の陰から徳田が現れソフトを揺らした。
「どういういことですか?」
「それはこっちの科白だよサーシャさん」
サーシャの息が正常に戻って来た。
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