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「あなたもスピッツを飼っていたの?」
「ええ…… まぁ…… この、ビアンコくんに凄くよく似ている子でした」
「あら、スピッツ飼いさんは珍しい」
「昔のこと、ですけどね」
「この子、数年前に近くの公園に捨てられていたのを拾ってきたのよ」
僕の全身に突き刺すような衝撃が襲いかかってきた。それから、絶対零度の冷手に全身を掴まれたように震えが襲いかかってくる。目の前にいるビアンコがブランであることに確信を持ったのも間もなくのことであった。
おばさんは続けた。
「おばさん、公園にウォーキングに行ってたのよ。そうしたら、捨てられてるこの子を見かけて家に連れ帰ったの」
ありがとうございます! ありがとうございます! 僕は心の中でおばさんに何度も頭を下げて謝辞を述べていた。
「今はペットにマイクロチップを埋めるのが義務化されてるから、どこの誰がどこのペットショップで買ったかとかって分かるじゃない? それでおばさん、警察に言ったのよ! 調べて下さいって!」
「はぁ」
「そうしたら、登録してる住所も電話番号も隣町(僕の昔住んでいた街)だって言われたわ! 引っ越しして蛻の殻になってたわ! きっと、引っ越しするときに邪魔になって捨てたのよ! 最低の飼い主よ! そこの住所が借家だったから、不動産屋さんにも聞いたけど、引越し先までは分からないって! 警察もそこまで追えないって言うからウチで引き取ったわ。マイクロチップ番号から血統書も再発行してもらったんだけど、純粋なスピッツで驚いたわ。おカネの問題じゃないんだけど、高いおカネ出して買ったんでしょうね…… それを捨てるなんて…… 話にならないわ」
「酷いことをする人がいたものですね」
僕はこのセリフをどの面下げて宣ったのだろうか。きっと、素知らぬ顔だったと思う。ビアンコの黒い瞳に映る僕の顔はこんな顔だったのだろう。
だが、僕はブランに申し訳がなく、顔を見ることは出来なかった。
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