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ブランが家にやってきてからと言うものの、毎日が楽しかった。
世話をしたり、遊んだりするのは勿論だが、一緒にいるだけで楽しいと感じられた。
毎日の散歩を面倒くさいとは一切思うこともなかった。小型犬の例に漏れずにとりわけ臆病なのか散歩コースは近所の道路のみ、車の往来が多い国道沿いには近寄りもしなかった。
向かい側から中型犬や大型犬が歩いてきた時はキャンキャンキャンと吠えに吠えた後に尻尾を巻いて僕の足の裏に隠れてしまう。弱い犬ほどよく吠えるとしか言いようがない。
同じ小型犬のロケットに会わせてみたのだが、お互いに吠え合い仲良くすることはなかった。
家に来客が来ても吠えに吠えた後は部屋の物陰に隠れて、来客を警戒するような目でじっと見るだけ。僕の家を訪れることが多い親友であっても、懐くことはなかった。
僕達家族三人以外には懐かない内弁慶ぶりが実に微笑ましいものだった。
服を毛だらけ毛まみれにされても、僕は気にすることはなかった。普段着は勿論、部屋にほったらかしにしていた体操服や給食衣が犠牲になった回数は数えきれない。
トイレの躾をする前に部屋中をウンチやオシッコまみれにされた時はちょっとは怒ったけど、仕方ないなあって許した。
この辺りは僕の甘やかしとしか言いようがない。
僕が部屋に放置していたティッシュの箱から引き出したティッシュをブランが誤飲して、腸閉塞で死にかけた時は一晩中泣いていた。ただただ、申し訳ないと言う気持ちからくる悔恨の涙である。数日の入院の後に、退院しぐったりしたブランに再会すると、僕の顔を見た瞬間に尻尾を力なくゆっくりと振った。体が弱りきっているのに、会えて嬉しいと思ってくれているのだろう。僕のせいで死にかけたのに、こうまで恭しくしてくることを嬉しく思いつつも、罪の意識に苛まれて泣きながら抱きしめて「ごめんね、ごめんね」と言うことしか出来なかった。
それ以降、ブランの誤飲の可能性があるものは何一つ床に置いていない。
ブランが寝る時は僕の布団の上で丸まってのもので、宛ら僕の体の上がベッドのようなものだ。小型犬用のベッドも買ったのだが、使われない為に部屋の隅で肥やしと化している。
ブランとの思い出は尽きることはない。ブランと過ごした毎日が僕にとっての宝物だ。
ブランは僕の全てになっていた。このままずっと、ブランと一緒にいられることを僕は一片たりとも疑うことはなかった。
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