どうすればよかったのか、未だにぼくにはわからない

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 僕はブランを保健所に連れて行くことだけはあってはならないと考え里親探しを続けたのだが、成果を得られなかった。そうしているうちに、引っ越し前日を迎えてしまった。 もう、家は蛻の殻。 後は不動産屋に鍵を返却した後、北海道に飛び立つだけである。  どうしようもなくなったところで、母は僕に提案を行ってきた。その手には荷造りで余ったダンボールが抱えられていた。 「優しい人に拾ってもらおうね」 「え? 捨てるの?」 「仕方ないでしょ? 捨てるのが嫌なら保健所連れてく?」 「いやだ!」 「それならもう捨てるしかないでしょ? この辺りだとウチの犬だって知ってる人が多いから、この辺に捨てたら通報されて『動物愛護法違反』で面倒なことになるわ。隣町の公園にしましょう」  僕は母の運転する車に乗って隣町の公園に向かった。ブランは遠出の散歩にでも行くことを楽しみに思っているのか、僕の膝の上から窓を流れる見慣れない風景を眺めながら尻尾をひーこひーこと振っていた。 隣町の公園についた僕は「最後の散歩」を行った。ある程度公園を歩き回り、人目が少なったところで、横に一緒についていた母が畳んでいたダンボールを箱状に組み立てた。 「じゃあ、入れようか。フチにはなんて書こうか? 『オスです、かわいがってください』でいいかな? 名前とか書くと次に飼う人が新しい名前付け辛くなっちゃうし」 僕はブランのリードを外し、ダンボールの中に入れた。それから、母の言う通りにダンボールのフチに『オスです、かわいがってください』とマジックペンで書いた。字の下手な小学生らしく大きさもバランスも皆無なものである。 「いい人に拾って貰うんだよ?」 僕はこう言いながらブランの頭を優しく撫でた。その瞬間、胸が締め付けられる思いに襲われた。こんな気持ちになったのは生まれて始めてのことである。 「じゃあ、行くよ? もう家は何にもないから今日はホテル泊まるよ? 明日、不動産屋さんに鍵返したら、すぐ飛行機乗るからね?」 僕は手を母に手を引かれて車を停めた駐車場へと向かった。僕は一旦足を止めて振り向いた。ブランはダンボールから顔を出して去りゆく僕達をじっと見つめていた。 その疑いのない無垢な黒い瞳を前に、僕は駆け寄りそうになるが、母にきつく手を握られて止められてしまう。 「もう、うちの()じゃなんだから諦めなさい。気にすると別れが辛くなるよ」 「でも……」 「仕方ないでしょ! 連れていけないんだから!」  僕達はそのまま振り向くことなく、公園を後にした。泊まったホテルの食事は豪華なものだったが、一切味がしなかった。寝る時も僕の体の上にブランが乗っておらずに軽い筈なのに、重く感じた。
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