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今朝。
俺、目が覚めたとたんに気付いたんだ。
ここがファンタジー小説の世界だ、ってことに。
ラノベよりも、ふた昔くらい前の世代、母さん世代の少女達に大人気でコミック化アニメ化もされた小説。
『魔法世界の王子様は御学友に恋をする』
魔法が存在する世界、アバロンの中心に在る魔法学園には世界を構成する八つの国から魔力の高さで選抜された少年少女が集められ六年間を過ごす。日本でいうところの中高一貫校みたいな場所だ。
この学園を舞台に各国の王子様がさまざまな個性のヒロインといちゃいちゃする──と言っても全年齢向けの作品だから。ほんのぉ~りしたいちゃいちゃだからね、いろいろと期待しちゃった人ごめんね。
そう。だからこれはいわゆる異世界転生。
俺は、令和日本で男子高校生だった、はず。名前とか家族のこととかは覚えてないんだけどさ。
朝から晩まで、いや夜も。食事と睡眠以外のほとんど時間サッカーに当てていて。サッカー三昧の生活を送っていた。Jリーガー目指してたからな。
それがなんかよくわからないんだけどこの世界に来ちゃってた。
たぶん俺、死んじゃったんだろう。そのへんの記憶はぼんやりしてるんだよね。
……
まぁ過ぎたことは仕方ない。
けどさ、現状いかんともしがたいことだってあるわけだ。
そう、俺の転生先が問題おおありなんだ。
俺は部屋を見回す。
目覚めた部屋は魔法学園の学生寮の一室。寝台にライティングデスク、椅子一脚にほ本棚衣装棚それぞれひとつの、こぢんまりとした前世のビジネスホテルのシングルルームくらいの部屋。窓がひとつに扉がふたつ。それぞれトイレとシャワールーム(バスタブはない、残念。が洗面台はあるぞ)に続く。これぞTHE質素、って感じ。寝具類一式とカーテンは学園の備品でクリーム色に統一。私物の持ち込みは制限が厳しくざっと見回して住人の個性とかは掴めない。ま、デスクの上がとっ散らかってるのは俺の性格なんだろうけどさ。
衣装棚の扉を開けると制服をはじめとした衣服が並んでいる。私服には暖色系パステルカラーが揃っているな。つか大半がピンクだな。ピンクのグラデーション。トップスもボトムス(ほぼほぼふんわりスカート、膝が見える丈)も今の俺の好みらしい。ふ、と扉の内側の鏡を見れば。
鏡の中には栗色のふわふわボブ。ミルクキャラメル色の大きな瞳、桜色の唇に頬もお揃いピンク色。象牙色のお肌はしみもそばかすもニキビもない。なんとこれで素っぴんなのだ。うん、俺、今日も可愛い──って、ちがぁう!
前世、男子高校生だった俺、なんで女の子に転生してんだよぉ。
しかも平民、そのうえモブ。どうせモブなら男のほうがよかったのに。
ま、まぁ平民でモブだけど可愛いからいいか……。
ってか、メインキャラクターと絡みのない正真正銘のモブだから今原作のどの辺なんだかさっぱり不明なんだよね。クラスメイトにメインキャラクターはいないし。
同じ学年にワイバーン騎士伯の四姉妹の次女ジュラルディン──シリーズ中唯一の闘うヒロイン、ジュディが居るんだけど彼女が活躍するのは最終学年だったはず。俺、今は二年生。新学年、始まったばかりなんだよね。
原作の時系列どおりだとすると……最終学年にシルウィス皇太子が居るから、えっとぉ……。
あれだな、たぶん。
主役は魔法学園のあるサイオン皇国の皇太子シルウィスと恋に落ちる平民出身のリリアナ。原作きっての人気カップルでけっこうスキンシップが激しい。いや、期待しないで全年齢向けだから。スキンシップってもハグとかほっぺにチュ、くらいで……いやその最後には抱擁してキス、ってのがあるわけだけど。
シルウィスは最終学年だしリリアナはその一学年下。
その物語では俺らの学年には一言も触れられていないわけで……。
さて?どうしたもんか。
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