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「花保と申します、父と兄がいつもお世話になっております」
「奥野正志です、こちらこそ会長と社長にはお世話になっています」
ダークブラウンの短髪をおしゃれに整えた目の前の彼は、目を細めて微笑んだ。
身長百五十七センチの花保が軽く見上げる高さなので百七十五センチ前後だろうか。
物腰の柔らかさに花保の緊張がやや緩む。
彼に自分が座っていた椅子をすすめて部屋の隅からもう一つの椅子を運ぼうとしたとき、和昌の声が聞こえてきた。
「奥野くん、この子が前に話した娘の花保だ。綺麗だろう?」
――ちょっとお父さん! 親バカすぎる!
自社の会長から娘自慢なんてされればうなずく以外にないではないか。
花保は顔を赤くしながら正志の隣でパイプ椅子を開いて座る。
「申し訳ありません。父は昔から親馬鹿で……」
「いや、仲がいいのがわかって微笑ましいですよ」
さすが元バイヤーの営業課長。白い歯を見せて爽やかに笑ってみせる。
聞けば彼は二十八歳なのだという。世間知らずの花保は大人の男性とどう話せばいいのかわからない。
会話が続かず落ち着かない気持ちでいると、和昌が「二人で散歩でもしてきたらどうだ?」と提案してきた。
「えっ!?」
戸惑う花保を尻目に和昌が正志に目配せをする。
「花保、奥野くんに病院の庭を案内してさしあげなさい」
「花保さん、よろしくお願いします」
「あっ、はい……」
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