1、偽りの初夜

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 和昌に見送られて病室を出ると、二人でエレベーターに乗り込んだ。  若い男性と二人きりになることが滅多にないので緊張してしまう。  正志が階数表示を見上げたまま口を開く。 「会長の具合はいかがですか?」 「思わしくはないです。今日は比較的元気にしていますが最近はすぐに発熱して……」  会話の流れで花保はさっきから気になっていたことを聞いてみた。 「あの、父は今日奥野さんと約束されていたんですか?」 「ええ、土曜日の今日、花保さんがいる時間に来るようにと言われていました」 「えっ?」  そのときエレベーターが止まりドアが開く。  口をポカンと開けた花保をクスリと笑い、正志は「お先にどうぞ」とスマートにドアを押さえたのだった。  
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